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7-1:午後1時のたこパ (7)
トイレの扉が、バタンッ、と強く閉まった。
降り続くの雨の音が、すぐに余韻を搔き消してしまう。
穴の底に残った油をパチパチと飛ばしているだけになったたこ焼き器の電源を切り、行儀悪く立膝をついている木瀬さんを見やった。
「木瀬さん、あんまり理人さんをいじめないでください」
「悪い悪い、反応がかわいいからつい」
ちっとも悪びれた様子を見せず、木瀬さんが缶ビールに手を伸ばした。
でもどうやら空だったらしく、二、三度左右に揺らしてから、ため息混じりに立ち上がる。
冷蔵庫の扉が開閉する音に続き、泡が弾ける気持ちいい音がした。
「佐藤くんってさ」
「はい?」
「理人の過去の話とか聞かねえの?」
「過去?ご両親のことですか?」
「それもあるけど、学生時代の話とか、それこそ、元カレのこととか?」
「……」
「冗談、睨むなよ。相変わらず余裕ねえのな」
いつになく朗らかに笑われ、全身の熱が顔に集まってきたのが分かった。
余裕がないわけじゃないけれど、ものすごくあるわけでもない。
そもそも、木瀬さんが木瀬さんだからいけないのだ。
ふたりが一緒にいるところを見たら、誰だってお似合いだと思うだろう。
理人さんにとって、木瀬さんは〝過去の男〟だ。
そのことを疑ったことはないし、今は木瀬さんも、〝自分に懐いてくるかわいい弟〟として理人さんを大切にしているんだと思う。
だから以前のように醜い嫉妬に駆られるようなことはない……けれど、モヤモヤするくらいは、許されてもいいんじゃないだろうか。
「理人は大成の特待生だったんだ」
木瀬さんが、もう一度たこ焼き器の電源を入れながら言った。
「特待生?」
「高校入試、満点に近い成績で入ってきたんだよ。498点」
「うっわ……そこまでいくと、むしろどこで2点を落としたのかが気になりますね」
「アハッ、確かに」
じわじわと温まってきた鉄が、また油の粒をパチパチと躍らせる。
ボウルに残っていた生地を菜箸で軽くかき回し、窪みのひとつひとつにたっぷりと注いでいく。
続いて、木瀬さんがタコを散らし、天かすと桜えびをこれでもかと盛った。
「大成って中高一貫の男子校でバリバリの進学校だから、ほとんどが持ち上がりの内部生なんだよ。それが突然、外部入学生が入学式で総代やるってんでなんやかんやで大騒ぎになって、それで俺も見に行ったの」
つまり、それが理人さんと木瀬さんの出会い?
「どんなガリ勉かと期待してたら、とんだおっちょこちょいでさー」
「おっちょこちょい?」
「あいつ、総代の挨拶で壇上上がるとき、階段で……むがっ」
「いい加減にしろ」
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