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7-2:午後6時半の来訪 (2)
「ここに住めばいいじゃん」
あまりにサラリと紡がれたせいで、一瞬木瀬さんの言葉の意味が分からなかった。
思わず理人さんを見やると、俺と同じ心境だったらしく、ただパタパタと長い睫毛を揺らしている。
シン……と静まり返った空気を誤魔化すように、大粒の雨が窓を叩きつけた。
「は……?」
ボタボタと乱雑な水音の合間に、ようやく短い吐息が混じる。
「部屋余ってんだし、ちょうどいいじゃん。こんなとこでひとり暮らしなんてもったいなくねえ?」
「いやそれは……」
「佐藤くんも、どうせいつもここに入り浸ってんだろ?」
「え?ま、まあ……」
「どうよ?」
「どう、って……そりゃあ、俺は理人さんと一緒に住めたら嬉しいですけど……」
口に出したら初めて、やっと理解が追いついてきた。
俺がここに住むってことは、つまり理人さんと同居……いや違う、同棲だ。
同棲。
同棲?
理人さんと同棲!?
うわあ。
してみたい!
「理人は?」
「えっ……」
大袈裟に身体を揺らし、理人さんが伺うように俺を見た。
でもすぐに、いけないものでも見たかのように素早く顔を背けられる。
「理人さん……?」
「俺は……」
理人さんが、下唇を噛んだ。
この反応は、どういう意味だろう。
いつものへの字口じゃないから、照れているわけではなさそうだし、やったやったと浮かれているわけでも、もちろんない。
むしろ、言いにくいことをどうやって打ち明けようか、考えているような……?
「なんだよ、煮え切らねえな。嫌なのかよ?」
「い、嫌じゃない!そりゃ、嫌じゃない……けど……」
確かに今まで同棲の『ど』の字も話題に上ったことはないし、今だって木瀬さんの気まぐれな発言に付き合わされているだけな気がする。
それでも俺はなんとなく漠然と、いずれはどこかでふたり一緒に住むことになるんだろうな、とは思っていた。
付き合っている恋人同士が両親に挨拶を済ませ、次にとるステップといえば、ウキウキランランな同棲生活じゃないだろうか。
特に結婚という順序を経ることのできない俺たちなら、なおさら。
自惚れるつもりはないけれど、きっと理人さんの頭の片隅にも、そんな将来設計があるんじゃないかと勝手に思っていた。
木瀬さんの言う通り、今では週の半分以上をここで過ごしているし、そうでない時は理人さんが俺のアパートに来ているから、実質毎日一緒にいることになる。
どちらか一方を拠点にして一緒に暮らすという選択は、いろんな意味で合理的にも思えた。
でも理人さんは、その是も非も明らかにしないまま、ただ木瀬さんを恨めしそうに睨んでいる。
なんて余計なことを言ってくれたんだ。
そう、咎めるように。
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