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7-2:午後6時半の来訪 (4)

それまでとは打って変わって確固たる意志を持って吐き出された言葉は、鋭い刃となって俺の心を貫いた。 住まわせる気はない? なんで? ご両親の遺産で買った場所だから? 俺はその神聖な空間を汚してしまう存在? それとも、なにかほかに―― 「なんっだそれ?意味わかんねえ」 俺の思考を断ち切ったのは、静かな苛立ちを携えた木瀬さんの声だった。 しかめっ面が、鋭い視線で理人さんを睨む。 「この期に及んでなにビビってんだよ。実家にまでついてったくせに」 「そ、それは……っ」 「前に言ってたじゃん。佐藤くん引っ越してくればいいのに。そしたら見送りも寂しくないからって」 「えっ」 「い、言ってない!」 「言った。ふたり暮らしするようになったらテーブルセット買いたいな、って飲み会で素面のくせにあほヅラ晒してたじゃん」 「あ、あほヅラ!?」 「理人さん、俺と一緒に暮らすこと考えてくれてたんですか……?」 「ち、ちがっ……」 「つうか、なんでその話してねえんだよ?親に挨拶したら次はそこだろうが」 「だ、誰がそんなこと決めっ……」 「だいたいさあ、お前ひとりじゃろくに料理もできなくて早死にするしかないんだから、佐藤くんに面倒見てもらえよ」 「め、面倒って、俺たちはそういう関係じゃ……」 「じゃあどういう関係?」 「そんなの航生に関係ないだろ!」 「なんっだその言い方。俺はお前を心配して……」 「それが余計なお世話だって言ってんだよ!」 「え、あの、理人さ……」 「なにキレてんだよ、だっせ!」 「キレてなんかない!」 「どう見てもキレてんだろ?しかも逆ギレ!うーわ、かっこ悪!」 「ちょ、木瀬さ……」 「どうせまたいつもみてえに、くっだらねえことメソメソウジウジ考えてるだけのくせに」 「航生おまえ、ほんっと腹立つな!」 「ええー?ちょ、ちょっとー……」 ギャンギャン。 ギャーギャー。 シャーシャー。 30すぎた大の男がふたり、まるで小型犬の喧嘩のみたいに大騒ぎ。 きっと最後の方は、ふたりとも意地になっていたんだと思う。 売り言葉に買い言葉。 とにかく頷かせたい木瀬さんと、とにかく頷きたくない理人さん。 ふたりの思いはバチバチと火花のように激しくぶつかり合い、そして―― 「あーもう、うるさいな!」 「は?お前いい加減にっ……」 「うるさい黙れ!」 「なっ……」 「黙ってもう帰れ!」 「てっめ……」 「ここは俺の家だ!今すぐ出てけ!」 「――で、結局理人さんが木瀬さんを追い出して、その流れで俺も追い出されました……」 がっくりと肩を落とした俺を、宮下さんが眉尻を下げて見守る。 かけるべき言葉を探して、そして見つからないんだろう。 視線が右往左往していた。 俺もまさか、あんなにも本気で拒否されるとは思わなかった。 椎茸を無理やり食べさそうとしてくるとか、そんなくだらない理由だったら、サラッと笑い話にできたのに。 「えっと……その土曜日のタコパ以来、神崎さんには会ってないの?」 「はい……」 「LIMEは?してみた?」 「何度か。でも……」 今のところ、もれなく全部、既読スルー。 「しかも、今朝はまだ来てないよね?」 「うっ……はい」 そう、それだ。 もうすっかり日課になっていた眠気覚ましのコーヒーを、理人さんは買いに来ていない。 まさかアレが原因で会社を休むなんてことはないと思ったし、LIMEに応えてもらえないなら、コーヒーを求める理人さんを捕まえて話をしようと思っていたのに。 「とりあえず、昼休みを待ってみたら?」 「そう、なんですけどね……」 今日は月曜日。 いつも通りに行動してくれたら、理人さんはきっとお昼を買いに来てくれる。 でももし、来なかったら? それはつまり、どういうことなんだろう。 まさか、このまま――……

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