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7-2:午後6時半の来訪 (5)

月曜日の昼休みは、一週間の中で一番『戦場』が忙しい日だ。 きっとこのビル全体で出勤している人の絶対数が、相対的に多いんだと思う。 それでも今日は久しぶりの晴れで外に食べに出る人が多いのか、心なしか行き交う人の流れが緩やかな気がした。 理人さんがここにやってくるのは、いつもだいたい12時25分くらい。 人の波がひと通り落ち着いた頃だ。 時計の針は、短針が1よりの12を示し、長針は5をちょうど通り過ぎたところ。 果たして、来てくれるだろうか。 次々と入れ替わる客に対応しながらも、俺の意識は完全に店の入り口に集中している。 道路に面した扉か、建物内部に直結している方の扉か。 可能性はふたつだが、理人さんは今日は内勤……のはず。 全神経を左奥後方に集中させた。 新たな人の頭頂部が視界に入るたびに、まるで花占いでもしている気分になる。 来る。 来ない。 来る。 来ない。 来る。 来ない。 来……た! 理人さんはゆったりと店内を巡り、俺と目が合うと早足でカウンターの前に歩み寄ってきた。 黒烏龍茶の小型ボトルと、今日発売されたばかりのビビンバ丼をカウンターに置く。 それらをずずいとこちらに押し出し、俺を見上げた。 1日半ぶりに見る理人さんだ。 「い、いらっしゃいませ」 「……ん」 理人さんは視線を外さないまま、鼻を鳴らして応えた。 手先が震えないよう細心の注意を払いながら、商品のバーコードを順番に読み取る。 「こちら、温めますか?」 「お願いします」 「かしこまりました」 持ち上げたビビンバの容器が、隣から伸びてきた手に奪い取られた。 宮下さんが意味深な目配せを寄越してから、丸い容器を電子レンジにセットしてくれる。 重低音を奏でながら動き出したのを確認し視線を戻すと、理人さんのアーモンドアイが真っ直ぐに俺の姿を捉えていた。 心臓の鼓動が不自然に迅る。 「ポ、ポイントカードはお持ちで……」 「佐藤くん」 「は、はい」 「この間はごめん」 「えっ……」 真一文字だった理人さんの唇が、への字に歪んだ。 「航生がいきなりあんなこと言い出すからビックリして……頭の整理がつかないままいろいろ突っ込まれて、その内わけわかんなくなってきて……かっこ悪いとこ見せた」 「い、いえそんな……」 「LIMEもごめん。ちゃんと読んでたんだ。でもなんて返していいか考えてる内に、日付、変わって……」 交わっていた視線が、ふいに外れた。 横顔が、ほんのり赤くなっている。 「追い返したりして悪かった。雨、降ってたのに」 「理人さん……」 「風邪、ひいてないか?」 「え、あ、はい。それは全然大丈夫です」 「そうか……よかった」

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