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7-2:午後6時半の来訪 (6)
理人さんの口元が、ようやく綻ぶ。
ほんのり淡い桜色に縁取られたアーモンド・アイがなだらかな弧を描き、頰が僅かに持ち上がった。
まるで、その瞬間を待っていた蕾が花開くように咲いた笑顔。
不安ばかりが渦巻いていた俺の心が癒され、緩やかに解れていく。
「今夜、会える?」
「えっ」
「佐藤くん家、行きたい。ちょっと残業するかもしれないけど、できるだけ早く上がれるように頑張るから」
「はい、待ってます」
「ん……ありがとう」
理人さんははにかんだように笑って、熱々のビビンバ丼を受け取り去っていった。
まっすぐに伸びたダークグレーの背中を見送り、それから深く息を吐いた。
よ……かったああああああああぁぁぁぁっ。
張り詰めていた緊張が解けたせいか、急に身体が重くなった気がする。
宮下さんが視界の端で意味ありげに瞬きしてくるけれど、今の俺には頷くのが精一杯だ。
まさかそんなことはないだろうと思ってはいたけれど、別れとか切り出されなくて本当に良かった。
理人さんは、ちゃんと俺のことを考えていてくれた。
心配してくれていた。
俺はいったい、なにを焦っていたんだろう。
そもそも同棲云々の話なんて、木瀬さんが気まぐれで言い出しただけじゃないか。
惑わされて喧嘩になるなんて、なんてもったいないことをしてしまったんだ。
まだあのゴールデンウィークから二ヶ月も経っていない。
理人さんは、俺との未来のためにありったけの勇気を使って俺の両親に会ってくれた。
その余韻だって、まだたっぷりと残ったままだ。
焦ることはないんだ。
俺たちには俺たちのペースがあるんだから。
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