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7-2:午後6時半の来訪 (11)
少し横になったら治る!
だから病院はいやだ!
理人さんの必死の訴えに負け、結局タクシーは呼ばないことになった。
横になってしばらくしても熱がさがらなかったら、問答無用で病院に連れていきますから。
そう、宣言だけはして。
「なんで理人さんが熱出してるんですか」
あのタコパの時、土砂降りの中、容赦なく外に放り出されたのは俺の方だったのに。
「知恵熱かも……」
「知恵熱?」
「だって佐藤くん、昨日、会いに来てくれなかった」
「は……?」
「俺のせいだって自覚はあったから、それなら俺が会いに行こうと思って外に出て……でも、会ってくれなかったらどうしようとか、謝っても許してもらえなかったらどうしようとか、いろいろ考えてたら動けなくなった。それで雨に濡れて……LIMEも、なんて返事したらいいかわからないまま夜が来て、ああ本当にもう終わりなのかも、って……そんなことばっかり浮かんできて泣きたくなって、とりあえず気持ちを落ち着かせようとお風呂に入ったけど、またいろいろグルグル悩んでたらいつの間にか寝てて、気がついたら完全に水風呂で……でももうなんか髪乾かすのも億劫だったから、そのままベッドに入った……」
「そりゃ熱も出ますよ、もう。なにやってるんですか」
「うん……ごめん」
すっかり大人しくなってしまった理人さんの額に、冷えピッタンを貼る。
一瞬ぴくりと頰が痙攣し、でもすぐに気持ちよさそうに緩んだ。
ベッドの端に腰を下ろすと、マットレスがほんの少しこっち側に傾く。
変わった角度と一緒に、理人さんの視線もついてきた。
充血したふたつのアーモンドアイが、不安そうに俺を見つめる。
「こうやって理人さんを看病するの、二度目ですね」
「あー……うん……」
「理人さん?」
「俺はもう、佐藤くんがいないとだめなんだ。だから……」
言葉の先を促す代わりに、唇を唇で塞いだ。
離れていく瞬間に、ちゅっと音がして、理人さんの耳が真っ赤に染まる。
「……移るぞ」
「知恵熱なんでしょ?それなら大丈夫」
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