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7-2:午後6時半の来訪 (13)

「なっ……なっ……?」 「はあー、スッキリした」 「ば、ばかって言ったな!」 「言いましたよ。理人さんがばかなことばっかり言うから」 理人さんの口が、金魚になる。 ぱくぱく動く薄い唇を、中指と人差し指と、親指で上下にサンドイッチした。 「んむ!」 「ひとつひとつツッコむのめんどくさいんで、まとめて言っていいですか」 潤んだ瞳が、不安に溺れる。 俺は、周りの空気をすべて取り込むつもりで深く吸い、そして、 「好きです」 一気に吐いた。 「……へ?」 「あと、理人さんはばかです」 「ま、またばかって!」 「だってばかでしょ。朝ふっらふらな理人さんなんてたまらなくかわいいし、料理しながらはしゃぐ理人さんは子供みたいでかわいいし、ランニングで必死に俺に追いつこうとする理人さんは健気でかわいいし、あ、もちろん、そんな簡単には追いつかせませんけど。セックスだって……これは、言わなくても分かるでしょ?」 ポカンと間の抜けていた理人さんの顔が、途端に真っ赤に燃え上がる。 「俺はそんな理人さんが好きで、好きで好きで好きでたまらないんです。今でさえこんなに好きなのに、一緒に住んだら俺の知らない新しい理人さんに出会えるってことですよね?そしたら俺は、今よりももっと理人さんを好きになります」 「な、なんでそんな風に言い切れるんだよ!」 「じゃあ逆に聞きますけど、同棲したら理人さんも俺の新たな一面を発見するわけじゃないですか。そしたら俺のこと嫌いになるんですか?」 「えっ……なら、ない。なるわけ、ない」 「でしょう?」 「……え」 「理人さん?」 「え、嘘だろ。こんな簡単な、こと?」 「プッ、そうです。こんな簡単なことを、理人さんはうだうだ悩んでたんですよ。だからばーかって言ったんです」 うそ。 そんな。 えぇっ? 謎の自問ばかりを繰り返す理人さんを見ていたら、俺の中にまたひとつ『かわいい』が生まれた。 持ち合わせの『かわいい』はとっくの昔にすべて出し切ってしまったと思っていたのに、理 人さんと一緒にいると新しい『かわいい』がどんどん量産されていく。 それは抑えきれない愛おしさとなって俺の心を満たし、時々こうしてどうしようもない衝動を抱かせるんだ。 触れたいという、衝動を。

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