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7-2:午後6時半の来訪 (14)

「んっ……」 近かった距離をさらに縮め、もそもそと動いていた唇から吐息を吸い上げた。 見開かれた瞳はゆらりと揺れたあと、ゆっくりと世界を遮断していく。 そっと触れ合っていただけだった唇は、滑る舌先を求めてどちらからともなく開いていった。 息が上がる直前でぐいっと胸板が押し戻され、俺たちは口づけをやめた。 火照った額をぐりぐりと押し付け、理人さんが低く唸る。 「移るって、言ってるだろ……」 「ごめんなさい、かわいくてつい」 「かわいい、って……言うなよ、もう……」 理人さんは、俺の脇腹あたりの布を、きゅっと掴んだ。 ああもう。 俺に『かわいい』しか言えなくしているのは、間違いなく理人さん本人だ。 「あ、そうだ」 「んっ?」 「理人さん、安心してください。イビキはかいてませんよ」 「ほ、ほんとに?」 「はい。寝言はしょっちゅうですけどね」 「えっ、な、なんて……?」 「さとうくんだあいすき!って……あいたっ!」 「見え透いた嘘つくな!」 ポカリと胸をはたき、理人さんはまた顔を埋めてしまった。 上半身に分け与えられる体温は暖かくて心地はいいけれど、明らかに平熱じゃない。 「理人さん、そろそろ行きましょう」 「え、どこに?」 「病院」 ぴょこん、と起き上がった頭が、またすぐに深く潜ってしまう。 「病院はいやだ!行かない!」 「嫌でも行きます。もうタクシー手配しましたし、葉瑠兄にも『今から行く』って連絡しました」 「葉瑠先生は外科医だから、風邪は専門外だろ!」 「あれ、知恵熱じゃなかったんですか?」 「うっ……ひ、卑怯だぞ!」 「なんとでも言ってください。鞄だけ取ってくるんで、ちょっと待っ……」 背中を向けて立ち上がりかけた身体が、不意に、くん、と突っ張った。 視線だけで振り返ると、理人さんの細長い指が控えめに俺のシャツを掴んでいる。 「理人さん」 「……」 「抵抗しても無駄ですよ。俺の方が力ある……」 「更新しないで」 「え……?」 「アパート、更新しないで」 「……」 「俺と、一緒に暮らして……っ」 本当に、理人さんはばかだ。 まだ、ひとりになることを怯えているなんて。 俺の答えなんて、もうずっと前から決まってるのに。 「佐藤くん……?」 「好きです、理人さん」 「えっ……」 「大好きです。どうしようもなく」 ほんの一瞬揺らいだ瞳が再び世界を遮断するのを見届け、俺は、愛しい人の熱い額にそっと口づけを落とした。

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