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7-3:午後8時のジュ・テーム (4)

「エレベーターの中まで蒸し暑いな……」 だんだんと小さくなっていく光る数字を見上げながら、理人さんが唸った。 残念ながら、アルミフォイルのてるてる坊主には除湿効果はないらしい。 「理人さん」 「ん?」 「ささっと買い物して、ささっと帰ってきましょうね」 「あー、雨振りそうだしな」 うん、それもある……けれど。 「今夜は理人さんと迎える初夜ですから。ゆっくり味わいたいじゃないですか」 「しょ、初夜って……変な言い方するな!」 理人さんが、真っ赤になってじたばたする。 おかしいな。 我ながら言い得て妙だと思ったのに。 これまで俺たちは、たくさんの夜をともに過ごし、同じくらいの数の朝を隣同士で迎えてきた。 一緒に目覚める朝は甘く、そして輝いてもいたけれど、どこか寂しくもあった。 〝今日はどうする?〟 〝今夜は泊まっていく?〟 俺たちはいつも会うための理由を探し、 〝終電に間に合わないから〟 〝どうせ同じ建物に出勤するんだから〟 離れないための口実を作り出していた。 でもそれも、今夜で終わる。 明日の朝、俺たちはいつものように別れるだろう。 〝仕事がんばってください〟 〝またあとで〟 でも、それだけだ。 〝今夜は会えるだろうか〟 〝帰れを言われるだろうか〟 そんな不安を抱くこともなく、当たり前のように俺はここに帰ってくる。 ――ただいま。 その言葉に、笑顔で応えてくれる人がいるから。

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