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7-3:午後8時のジュ・テーム (9)
「んっ……は、あ……っ」
玄関に引きずり込んだ勢いのまま、唇を貪る。
涙の筋が口の端を掠め、僅かな塩味が舌に沁みた。
ぴっちりと閉まったままの襟口のボタンを外し、昨晩の自分の痕跡を上書きする。
鬱血の跡が濃くなるたびに跳ねる身体が愛おしくて、欲望のまま腕の中に閉じ込めた。
「理人さん、腹減ってる?」
「え……?うんまあ、それなりに……?」
「それなり、だったら今すぐ食べなくてもいいですよね?」
「ひゃっ……あ、ちょ、お、おおおおい!?」
「うわ、理人さんかっる!」
「お、降ろせこのやろうっ!」
「だーめ。このままベッド行きます」
――だから暴れないで。
意図して耳元で囁き、理人さんの動きを封じ込める。
するとぎゅっと首が締まり、視界の端に映る耳の輪郭が真っ赤に染まった。
その熱を隠すように顔を埋められ、近づきすぎた吐息で首筋がしっとりと湿る。
もういっそこの場で食ってやりたくなるのを我慢して、手探りで靴を脱がせて下に落とした。
大股でキッチンを通り過ぎようとしたところで、理人さんがハッと振り返る。
「あ、あー!佐藤くんのカルボナーラ!」
「あとでチンしましょう。今はとりあえず理人さんを食べたいです」
「なっ……!」
「嫌?」
「嫌じゃっ……ない……っ」
色鮮やかに茹で上がった頰に口づけを落として、歩みを再開した。
リビングを横切り、寝室の入り口を潜り、ばかでかいベッドに理人さんをぽいっと投げ落とす。
そして、沈んだマットレスの弾力が戻って来る前に覆いかぶさった。
「んっ……んんっ」
「理人さん、脱がすよ」
「あっ、待っ……」
「待ちません」
「んっ、ちょ、だ、だから、スイッチ!」
「今日のはわかるでしょ?」
「わ、わからなっ……んっ、ふっ……」
いやいやと動く頭を捕まえて、鼻ごと唇を塞ぐ。
ストライプシャツをズボンから引き摺り出し、抵抗を無視してめくり上げた。
胸の飾りに舌先を伸ばしチロチロと揶揄うと、すぐにぷくりと膨らんでくる。
「あっ、あっ……!」
右側を指で捏ね、左側をピチャピチャと舐めると、細い身体がいやらしくくねった。
桜色に縁取られたアーモンド・アイが、潤い輝きを増していく。
ゆらゆらと揺れる世界に俺を閉じ込めてはなさない。
世の中は常に変わり続けている。
ひと昔前はなかった消費税が今では当たり前になり、物珍しかったはずの携帯電話はあっという間にスマホに取って変わられた。
だから近い将来、俺たちのような関係が〝普通〟じゃなくなっていても不思議じゃない。
それでも、この人は言わないと思う。
いざその時が来ても、俺とか俺の家族とか、またそんなことばかりを考えて、結局言ってくれないんだ。
だから――
「理人さん」
「んぁっ……な、なに……?」
「俺と、結婚してください」
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