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7-3:午後8時のジュ・テーム (10)

長くも短くも感じた沈黙のあと、薄い唇がわなわなと震え、 「な、んで……っ」 掠れた声が絞り出された。 「俺、が……俺がっ、言うはずだったのに……!」 「はい、父さんから聞きました」 「お、父さんから……?」 理人さんの瞳が、まん丸になった。 背景に、がああぁぁぁん、の文字が見えた……気がする。 ごめん、父さん。 あとで理人さんに怒られといて。 「法律上はまだ入籍できないんで予約になっちゃいますけど、近い将来できるようになったら、その日のうちに結婚しましょう」 理人さんの目が、ぱちくりと瞬く。 その反応があまりにかわいくて、こんな大事な場面なのに噴き出してしまいそうになった。 大丈夫? 息してる? 「理人さん」 「……っ」 「返事は?」 「イエスに決まってるだろ……っ」 いーっと歯を食いしばって泣くのを堪える姿にはムードもへったくれもないし、鼻水が垂れちゃってせっかくのイケメンが台無しだし、肌蹴た胸元は相変わらず起ち上がったままだし、一世一代のプロポーズの場面としては、なんだかなあとは思う。 でもそんな情けない理人さんの泣き笑いの顔が、俺の心を不思議なあたたかさでいっぱいに満たしてくるから、結局俺はまた勝手に煽られて、欲望に突き動かされるまま理人さんを抱きしめてしまった。 長い腕で背中をぎゅうぎゅう締め付けてくるのも、誤魔化すようにずずっと鼻を啜るのも、さりげなく頰を擦り擦りしてくるのも、全部が全部いじらしくて、身体の奥からずくずくと素直な情欲が湧き上がってくる。 それが形になって天を向く前に、理人さんをもう一度ぽいっと放り投げ、自ら衣服を脱ぎ捨てた。 熱に浮かされみっともなく逸る俺を、理人さんの濡れた瞳が見上げてくる。 いつもは必死に隠そうとするくせに、今夜にかぎって期待がだだ漏れだ。 「んっ……ふ、ぅ……」 「理人さん、ここ、もうグッチョグチョ」 「言うなぁ……っ」 まだ触れてもいないそこが、淫らな期待を溢れさせ、紺色のボクサーショーツに濃いシミを広げていた。 ちゅっ、ちゅっ。 わざと音を立てながら、口づけを下へ下へと移動していく。 臍を揶揄い、これでもかと突き上がったパンツを引き下ろすと、ぷるんと飛び出してきた理人さんのペニスが俺の頰を軽くはたいた。 「あっ、ご、ごめっ……んぐ」 開いた口内に右手の人差し指と中指を差し込み、驚きに満ちた瞳を同じ角度で見下ろす。 「舐めて」 ふるりと震えた舌先が、乾いた指先の上を丁寧に這った。 まるで、溶け出したアイスキャンディーの滴りを辿るように、下から上へ、ゆっくり、ねっとり。 「んっ……んっ……」 「えっろ……」 控えめな水音を立てながら、唾液で指を着飾るように銀色のヴェールを描いていく。 羞恥に頰を染めながらも一生懸命な理人さんを見下ろしていたら、また心の奥でなにかがずくずくと疼いた。 舐められていない方の手で胸の突起を摘むと、理人さんが引き締まった太ももを擦り合わせる。 「もう欲しい?」 「……ん」 理人さんが躊躇いながら長い脚を開いていき、少しずつ秘部が露わになっていく。 その間もじれったいほどゆっくりと指の間を舐められ、頭の奥がクラクラしてきた。 理人さんの口から、指を引き抜く。 すっかり濡れそぼった人差し指を窄まったそこに当てがい、 「あっ……!」 つぷりと差し込んだ。 少しずつ圧をかけながら奥を目指すが、やはり唾液だけではローションの滑りにはほど遠く、抵抗が大きい。 「大丈夫?」 「うん……っ」 理人さんはこくりと頷き、ぎゅっと目を瞑った。 仰け反った喉は小刻みに震え、裏腹に、大丈夫じゃないことを訴えてくる。 いつだってそうだ。 何度交わっても、理人さんの身体はまるで初めてのように恥じらう。 与えられる刺激は苦痛でしかなく、今すぐやめてほしいと抗う。 そんな本能に気づかないふりをして、理人さんは、不快感が快感に変わるまでじっと耐える。 俺を受け入れるために。 やがて頑なだった理性が綻び嫌悪が歓びに変わり始めると、我を忘れたアーモンド・アイが俺を映し出し、言外に強請るのだ。 もっと――と。

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