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閑話:午後1時のフィーバー (3)
『お母さん』
スマホに表示された四文字が、なんだかすごくくすぐったい。
通話ボタンを押しかけて、ふと思案する。
――何もなくてもいいから、いつでも連絡しておいで。
お父さんもお母さんもそう言ってくれたけど、こんな平日の真昼間に電話して迷惑にならないだろうか。
――本当の両親だと思って遠慮せずに頼ってほしい。
甘えても、いいいんだろうか。
ひとつ息を吐き、一旦ボタンを押して画面を元に戻した。
LIMEを開き、一文字ずつ丁寧に入力する。
「今、少しお電話大丈夫ですか?……で、送信、っと……」
シュンッと音がして、メッセージが吹き出しの中に収まった。
返事が来るまでに、ご飯を用意しておこう。
いや、卵を溶いておくのが先か?
冷蔵庫を開けて中を覗いたとき、
ピヨピヨピヨ。
ひよこが鳴いた。
ピヨピヨピヨ……。
鳴き声は止まることなく続いて……って、これ、LIME電話だ!
「も、もしもし!」
『もしもし、理人君?』
「は、はい。お忙しい時間にすみません。今……」
『大丈夫よ。それに、わざわざ聞かなくてもいいって前に言ったでしょう』
「あ……ご、めんなさい」
『怒ってるんじゃないの。本当に遠慮なんてしないでほしいのよ。もう家族なんだから……、ね?』
「……はい」
あー……どうしよう。
くすぐったいし、鼻の奥がツンとするし、ものすごく……嬉しい。
『それで、どうしたの?』
「え、っと……佐藤く……、英瑠くんが、今朝から熱を出してて……あっ、病院で診察してもらったらただの風邪って言われたので心配はないと思います!ただその……もらった薬が食後なので英瑠くんになにか食べてもらいたくて、うどんとかスープとかゼリーとかも考えたんですけど、やっぱりお粥かなって思って、でも作り方を調べたら出汁がお好みでっ……」
『理人君、落ち着いて』
「あ……」
『英瑠が風邪を引いたのね?』
「は、はい、ごめんなさい」
『なんで理人君が謝るの?』
「あ、あー……俺の風邪が移ったと思うんです……たぶん」
電話の向こう側で、空気が笑った気がした。
『それで?』
「え?」
『つまるところは?』
「あ、え、えっと……」
つまるところは、
「おふくろの味の出し方を、教えてください」
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