383 / 492

閑話:午後1時のフィーバー (4)

ゆっくりと上下する胸を確認してから、そっと額に手を当てた。 汗ばんだ肌はじっとりと湿ってはいるけど、朝よりは格段に温度が低い。 よかった、熱はだいぶ下がったみたいだ。 汗かいてるから、起きたら着替えるよな。 部屋の中を見回すと、隅っこに畳んだ服が積んであるのが見えた。 バランスの悪い洗濯物タワーを崩さないように注意しながら、Tシャツとハーフパンツを一枚ずつ抜き取る。 ふいにベッドが軋んで一瞬ギクリとしたけど、佐藤くんは寝返りを打っただけだった。 佐藤くんの服から、佐藤くんのにおいがする。 そんな当たり前のことに、ドキドキしてしまう。 もうすっかり嗅ぎ慣れたこのにおいは、きっと柔軟剤の香りなんだろう。 そう分かっているのに、鼓動が逸り、同時に、すごく安心している自分がいた。 視線の先で、佐藤くんが眠っている。 朝はいつも佐藤くんの方が目覚めがいいし、夜も俺の方が先に寝てしまうことが多いから、こんな風に寝顔をまじまじと見つめるのは初めてかもしれない。 かっこいい、と思う。 スッと通った鼻筋に、目尻に向かってちょっとだけ垂れている二重のライン。 僅かに開いた唇は、熱があるせいか赤く火照って見える。 今は隠れて見えないけれど、鍛えられた胸板は厚く、たくましい。 タオルケットからはみ出ているのは、白と黒の鍵盤の上でダンスを踊り、繊細な音楽を奏でる長い指。 ほら、どこを見ても佐藤くんはかっこいい。 近い将来、この佐藤くんが俺のマンションに引っ越してくる。 そうしたら、佐藤くんの寝顔が見放題だ。 もちろんそれは、俺に〝遅寝早起き〟が実践できたら……の話だけど。 ――アパート更新しないで。 ――俺と一緒に暮らして。 ずっと言いたくて、言えなかった言葉がやっと言えた。 言ってもいいのか分からなかった言葉が、ついに言えた。 佐藤くんは瞳をさらに蕩けさせ、俺に好きだと言った。 大好きだと言って、キスしてくれた。 嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて。 涙が出た。 「佐藤くん……」 無防備な唇の輪郭を、ゆっくりと指で辿る。 そして、 「好きだよ」 そっと、熱い吐息を吸った。

ともだちにシェアしよう!