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閑話:午後1時のフィーバー (4)
ゆっくりと上下する胸を確認してから、そっと額に手を当てた。
汗ばんだ肌はじっとりと湿ってはいるけど、朝よりは格段に温度が低い。
よかった、熱はだいぶ下がったみたいだ。
汗かいてるから、起きたら着替えるよな。
部屋の中を見回すと、隅っこに畳んだ服が積んであるのが見えた。
バランスの悪い洗濯物タワーを崩さないように注意しながら、Tシャツとハーフパンツを一枚ずつ抜き取る。
ふいにベッドが軋んで一瞬ギクリとしたけど、佐藤くんは寝返りを打っただけだった。
佐藤くんの服から、佐藤くんのにおいがする。
そんな当たり前のことに、ドキドキしてしまう。
もうすっかり嗅ぎ慣れたこのにおいは、きっと柔軟剤の香りなんだろう。
そう分かっているのに、鼓動が逸り、同時に、すごく安心している自分がいた。
視線の先で、佐藤くんが眠っている。
朝はいつも佐藤くんの方が目覚めがいいし、夜も俺の方が先に寝てしまうことが多いから、こんな風に寝顔をまじまじと見つめるのは初めてかもしれない。
かっこいい、と思う。
スッと通った鼻筋に、目尻に向かってちょっとだけ垂れている二重のライン。
僅かに開いた唇は、熱があるせいか赤く火照って見える。
今は隠れて見えないけれど、鍛えられた胸板は厚く、たくましい。
タオルケットからはみ出ているのは、白と黒の鍵盤の上でダンスを踊り、繊細な音楽を奏でる長い指。
ほら、どこを見ても佐藤くんはかっこいい。
近い将来、この佐藤くんが俺のマンションに引っ越してくる。
そうしたら、佐藤くんの寝顔が見放題だ。
もちろんそれは、俺に〝遅寝早起き〟が実践できたら……の話だけど。
――アパート更新しないで。
――俺と一緒に暮らして。
ずっと言いたくて、言えなかった言葉がやっと言えた。
言ってもいいのか分からなかった言葉が、ついに言えた。
佐藤くんは瞳をさらに蕩けさせ、俺に好きだと言った。
大好きだと言って、キスしてくれた。
嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて。
涙が出た。
「佐藤くん……」
無防備な唇の輪郭を、ゆっくりと指で辿る。
そして、
「好きだよ」
そっと、熱い吐息を吸った。
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