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閑話:午後1時のフィーバー (5)
鍋の蓋を開けると、たっぷり五分蒸らしてふかふかになったたまごがゆが、黄金色に輝いていた。
蒸気と一緒に、出汁の芳ばしい香りが立ち上る。
どうやら、それなりに上手くできたみたいだ。
自分の口角が上がるのを感じながら、浅い陶器のお茶碗に少しずつ盛り付ける。
仕上げ用の刻み海苔を別の小皿に乗せ、白いレンゲと一緒にトレイに乗せた。
水の入ったコップで隙間を埋め、零さないように両手で運ぶ。
そして僅かに浮いた空間を腕で押し、佐藤くんの部屋の扉を開けた。
「理人さん……?」
ぼんやりとした瞳が、俺の姿を捉える。
「あ、起きたか。気分どう?」
「だいぶ楽になりました」
「そうか、よかった」
「今何時ですか?」
「お昼の1時。着替える?汗かいただろ」
「ありがとうございます」
お粥のトレイを丸いローテーブルに下ろし、代わりに用意してあった着替えを差し出す。
佐藤くんは気だるげに身体を起こし、ゆっくりと服を脱いだ。
隠れていた肌色が露わになって、こんな時なのにドキッとしてしまう。
咄嗟に目を逸らして、お茶碗にかかっていたラップを取った。
「ん、なんかいい匂いがする……」
「あー……たまごがゆ」
「えっ!」
佐藤くんが俺の手元を見て、両目の瞬きを止めた。
「えっ、え?まさか理人さんが作ってくれたんですか?」
「俺以外に誰がいるんだよ」
「ひとりで?」
「うん」
「だ、大丈夫ですか?」
「なにが?」
「怪我とかっ……」
「してない」
「火傷とかっ……」
「だからしてないって!」
ほんとは、卵溶く時に勢い余ってボウルの中身を全部床にぶちまけてしまってやり直したし、味見した時にフーフー足りなくて舌を傷めたし、海苔を刻む時にキッチンバサミで右手の肉をうっかりカットして絆創膏沙汰になったりはしたけど、まさかそんなこと正直に言うわけがない。
「お昼の薬、飲まないとだめだろ。だから、なにか食べた方がいいと思って」
「うわあ……いただきます」
佐藤くんは、まるでずっしりと重い金塊でも受け取るように、両手を出して大事そうにお粥を受け取った。
乳黄色の塊を控えめにレンゲに盛り、そっと口に含む。
何度か味わうようにモゴモゴしてから飲み込み、嬉しそうに笑った。
「ものすごく美味いです」
「そっか、よかった」
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