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閑話:午後8時の花火 (1)

理人さんは、人混みが苦手だ。 「おはようございます、理人さん!」 「ん……んんー……」 「晴れましたよ!」 「ん……ん?」 「絶好の海水浴日和です!」 「……だから?」 「海行きましょう、海!」 「……やだ」 「えぇ〜っ!」 「……水着ない」 「じゃあ買いに行きましょう!」 「……クロールできない」 「そんなガッツリ泳がなくてもいいですから!」 「やだ。暑い。人多い。やだ」 あ、『やだ』を二回言ったな、くっそう。 「じゃあ夏祭り!」 「……」 「縁日なら理人さん絶対好きでしょ!」 「縁日……?」 「はい!」 「……どこの?」 「神社です!こっから電車で30分!」 「……やだ。電車混む」 「えぇ〜っ!理人さんの浴衣姿見たいです!」 「浴衣ない……いやある、けど、やだ」 「なんで!」 「人多い。暑い。怖い」 「怖いってなにが……」 「神社」 「もう、理人さーん!夏らしいことしましょうよ〜!」 「……」 「梅雨明けたんですよ!?夏ですよ?サマーなんですよ、サマー!」 「してるだろ、夏らしいこと」 「は……?」 「猛暑の中外を行き交う人たちを憐れみながら、エアコンの効いた部屋でダラダラ惰眠を貪るなんてこれ以上夏らしいことない……ふああああぁ」 「それじゃあいつもと一緒でしょ!俺は理人さんとっ……」 チャンチャカチャンチャンチャン、チャカチャカチャンチャン。 「……電話、鳴ってるぞ」 「あとできっちり話の続きしますから」 「……やだ」 ああもう、くっそむかつく!

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