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閑話:午後8時の花火 (6)
「ただいま!」
「あ、おかえりなさ……うわっ!?」
小一時間後に戻ってきた理人さんは、頭の上から足の先まで、いろんなものがてんこ盛りになっていた。
りんごあめ。
チョコバナナ。
光る腕輪。
金魚……は、あれ、いない。
首から提げているのは、水笛だろうか。
さらに頭には、見覚えがあるようなないような、謎のキャラクターのお面を斜めに乗せている。
さらに瑠未も、ピカピカ光るハートのペンダントを身に着け、手には色とりどりのボールが入ったビニール袋を提げていた。
「瑠未、パパはみっつまでって……」
「違うよ、理人お兄ちゃんのだもん!」
「えっ」
「ごめんなさい、葉瑠先生。誘惑に勝てませんでした」
「あ、理人くんがか……?」
「はい。楽しすぎて選べなくて……」
「プッ」
「そ、そうか。なら、しょうがない、な?」
「うん!」
瑠未が葉瑠兄のあぐらの上に飛び乗ると、途端に国王の表情がだらしなく蕩けた。
「この袋なんだ?」
「焼きそば!理人お兄ちゃんがみんなの夕ご飯にしようって!」
「そうか。あ、理人くん、お金……」
「いりません」
笑顔で首を振り、理人さんもゆっくりと俺の隣に腰を下ろす。
全身ぶら下げていたいろんなものと袋を敷物の上に所狭しと並べると、その中からピンク色の紙袋を俺に差し出してくれた。
「はい、佐藤くん」
「ありがとうございます。あ、ベビーカステラだ。懐かしい」
「小腹減ってるかと思って」
「確かに減りましたけど、なんか多くないですか」
「瑠未ちゃんとどのサイズ買おうか迷ってたら、お店のお姉さんがなんか急に張り切って『持ってけイケメンコノヤロー』って、いっぱい詰めてくれた」
「プッ、さすが理人さん。じゃあ遠慮なくいただきます」
「うん、どうぞ」
「あ、甘くて美味い」
「よかった」
理人さんが、嬉しそうに微笑む。
そして自分も袋からベビーカステラを取り出すと、ひょいっと口に投げ入れた。
もごもごと形を変える理人さんの横顔が、だいぶ傾いた太陽の光を受けて美しく煌めく。
いつもはサラサラと流れている髪がかき上げられ、耳元から首筋が露わになっていた。
人混みを歩いてきたせいか浴衣が着崩れて、開いた襟口からなだらかな鎖骨のラインが見える。
汗ばんでしっとりと光る肌色を見つめていたら頭の奥がクラクラしてきて、慌てて目を逸らした。
限られた空間の中、理人さんが身動ぐたびに肩が触れ合って、初めてじゃないのにすごくドキドキする。
まるで、あのクリームソーダの日みたいだ。
ああそうか。
理人さんと付き合いはじめて、もうすぐ一年になるんだ。
たった一年の間に、いろんなことがあった。
乗り越えたなんて言うと大袈裟だけど、それでも今こうして理人さんが俺の隣にいてくれることが当たり前じゃないことはわかる。
ふたりで必死になって手に入れた幸せなんだ。
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