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閑話:午後8時の花火 (7)

ドンッ、と空気が轟き、太陽の去った夜空に大輪の花が咲いた。 飛び散った花びらが黄色から赤へと色を変え消滅すると、周りから歓声が上がる。 理人さんは俺の右半身にゆったりと体重を預け、次から次へと打ち上げられる花火の行方を目で追っていた。 アーモンド・アイは、瞬きを忘れてしまったように微動だにしない。 瞳の中に閉じ込められた花が咲いては消え、消えてはまた咲いていた。 「綺麗ですね」 「うん。こんな近くで花火見たの、久しぶりだ」 「そうなんですか?」 「会場に来たことは何回かあるけど、こうやってちゃんと座って見るなんて何年ぶりだろ。こういうのって、なんとなく家族ですることってイメージあったから……」 「家族ですよ」 「え……?」 無防備だった左手に手を重ねると、ふたつのシルバーリングが触れ合った。 理人さんの指輪の中心には、小さなタンザナイトが輝いている。 今はまだ、ただの口約束にすぎない。 でもこの指輪は、いずれ俺たちが本当の家族になる証。 「ね?」 「……そうだな」 重なっていない方の手で、ゆっくりと頰を撫でる。 理人さんは、気持ち良さそうに目を閉じた。 一段と大きな歓声が上がり、夜なんて嘘のように辺りが明るい緑色に包まれる。 バチバチと音を立てながら燃え尽きる光を浴びながら、俺は理人さんの唇を吸った。

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