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裏閑話:午後0時の事件簿 (3)
訝しげに顔をしかめた佐藤くんが、わたしの人差し指の先をゆっくりと視線で辿っていきます。
そう、そっち。
そのままそのまま……そこ!
佐藤くんは、ようやくなにかに気が付いたようにハッと目を見開きました。
そして神崎さんの襟をガシッと掴んで引き寄せてポロシャツのボタンを留めて……って、早っ!
「な、なにすんだよ、いきなり!」
「理人さん、首のとこっ……」
佐藤くんが大きな身体を少しだけかがめて、なにかを神崎さんの耳元にコショコショ囁いています。
うーん、やっぱりこのふたりの身長差は絶妙に最高です。
突然襟元を引っ掴まれた神崎さんは、怒っているのかちょっとだけ頰が膨らんでいます。
でも――…
「なっ、お、おまっ……!」
神崎さんが、金魚のように口をパクパクさせ始めました。
膨らんでいた頰が今度は凹み、まるでムンクの叫びのようになっています。
顔が赤くなったり、青くなったり、か弱い少女のようにポロシャツの襟を握りしめてみたり、佐藤くんを睨んでみたり、こっちを見て泣きそうになったり……あ。
その涙目、
滾る。
コホン……なにはともあれ、無事に伝わってよかった。
こらこら、佐藤くん。
慌てる神崎さんがかわいくてたまらないのは分かるけど、そのだらしない表情をなんとかしなさい。
とにかく、これで課題は解決しました。
そして、この〝丸見えキスマーク事件〟のおかげで、ひとつの事実が明らかになりました。
神崎さんが受けだということが!
え?
佐藤くんが受けの可能性もあるって?
キスマークだけで判断するなって?
チッチッチッ、甘いですね。
わたしには分かります。
神崎さんのキスマークは、〝攻めが嫉妬に駆られて勢いで受けにつけてしまったキスマーク〟なのです!
――佐藤くん、今日は買い物に付き合ってくれてありがとな。
――はい、もちろん……って、なんでもう着てるんですか。
――ファッションショー。どう、似合う?
――そりゃ似合いますけど……はしゃぎやがってかわいいな、くそっ。
――あ、ちょ、佐藤く、いっ……た!なにすんだよ!
――マーキング……じゃないか、虫除けです。
――虫、除け?
――ポロシャツ姿のかっこかわいい理人さんに絆されて、変な虫が寄ってこないように。
――……ばか。
ほうら、分かるでしょ?
滾るでしょう!?
思わず荒ぶる鼻息を隠しきれずにいると、また神崎さんと目が合ってしまいました。
でもすぐに逸らされてしまいます。
ああ、横顔が真っ赤……いい……とってもいいです。
「理人さん、ごめんって!」
「許さない!今夜覚えとけよ……っ」
だめ。
その言い方じゃだめですよ、神崎さん。
逆効果です。
心の声がシンクロしたらしい佐藤くんが、また頰の筋肉をたるったるに緩ませています。
そしてプリプリ怒っている神崎さんにとろろ蕎麦の入った袋を差し出し、神崎さんの頭を撫でました。
引ったくるように受け取り、神崎さんがまた口を尖らせて怒っています。
でも、頭を撫でられたことは咎めないんですね。
素敵。
神崎さんは、これが最後だと言わんばかりに佐藤くんに渾身の睨みをきかせてから、踵を返しました。
言うまでもなくこれも逆効果で、結果的にものすごく頑張っている感じの神崎さんにうるうるしながら見上げられる結果になり、佐藤くんはこっそり鼻を押さえていました。
わかる。
その気持ちものすごくわか……あ。
また、神崎さんと目が合っちゃいました。
でも、今度は逸らされません。
顔全体を真っ赤に染めた神崎さんは――
……ペコッ。
こんな時にもお礼ができるなんて、神崎さん、なんていい子……!
あ、いかん。
わたしも鼻の奥からなにかが溢れそうになってきた。
足早に去っていく背中を見送りながら、こっそり鼻の頭を摘みます。
というわけで、皆さん。
秋のイベントでは、新刊三冊出ます。
『エリートリーマンとコンビニ店員の賢者の×× 』
『エリートリーマンとコンビニ店員の秘密の×× 』
『エリートリーマンとコンビニ店員の×× の囚人』
え?
どこかで見たことあるタイトルだって?
ははっ!
なに言ってるんですか、もう。
そんなわけないでしょう?
だって、全部『R18』ですもの!
fin
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