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裏閑話:午後0時の事件簿<真相> (1)
理人さんの様子がおかしい。
「理人さん、天ぷら粉が混ざったら教えてください」
「……」
「理人さん?」
「あ、あー、うん。できた」
理人さんの親指と人差し指が、海老の尻尾を掴み、そっと衣の池へと導いていく。
何度か浸してから、恐る恐る油の中に落とした。
ジュワッと大きな飛沫が上がり、一気に衣が固まっていく。
いつもならその様子をアーモンド・アイをキラキラ輝かせながら見つめるはずなのに、今夜の理人さんはなんだかすごく上の空だ。
「大丈夫ですか?」
「え、なにが?」
「疲れた?」
「あー……うん、今日も暑かったしな」
「けっこうウロウロしましたからね。それに理人さん、今週はずっと残業続きだったでしょ」
「う、うん……」
「辛かったら座ってて。蕎麦はもうできてるし、あとは天ぷら揚げるだけだから」
「いや、そこまでは……あ、今何時?」
「もうすぐ6時です」
「じゃあトイレ行ってくる!」
「は?」
じゃあトイレ、って……、
「なんだ、いったい……?」
ピーンポーン。
トイレの扉が閉まると同時に、インターフォンが鳴った。
赤く点滅するランプを確認し、通話ボタンを押す。
「はーい」
『佐藤さんにお荷物です。玄関先までお持ちしてもいいですか?』
「ああはい、お願いします」
ボタンを長押ししてエントランスのロックを解除すると、モニターからお兄さんの姿が消えた。
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