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閑話:午後0時の事件簿<真相> (4)
天ぷらの続きを揚げながら、カウンター越しに理人さんを見やる。
ダイニングテーブルに突っ伏した理人さんは、目が合うと反対方向に顔を背けてしまった。
「あー……くっそ」
「理人さん?」
「今度は玄関かよ!」
「えっ」
「佐藤くんがところ構わずスイッチ入れるから、キッチンだってリビングだって、もうどこを見ても恥ずかしい思い出でいっぱいじゃないか!」
理人さんは勢いよく上半身を起こし、わなわなと両手を震わせた。
「ふとした瞬間に思い出して、いたたまれなくなる俺の気持ちがわかるか!?」
「しょうがないでしょ。理人さんがかわいいことばっかりしてくれるんだから」
「だから俺のせいにするなって!」
「プッ」
思わず吹き出すと、理人さんはまたテーブルに突っ伏してしまった。
額がぶつかる鈍い音がする。
いつもはサラリと流れている髪が、今はボサボサだ。
「理人さん?」
「……」
「ごめんなさい。怒っちゃった?」
だってまさか、ピアノをプレゼントしてもらえるなんて夢にも思わなかった。
しかも、残業なんて嘘までついて、仕事で疲れてる身体を押して、きっと馴染みなんてまったくない楽器屋さんに、勇気を振り絞ってひとり、足を踏み入れたに違いない。
俺を喜ばせるために。
そんなの、スイッチをONにするしか選択肢はないと思うんだけれど。
「あとでアイス買ってくるから、機嫌直して?」
「……」
「理人さんってばー」
「なにか……」
「え?」
「なにか弾いてくれたら、許す」
理人さんが、のっそりと起き上がる。
そして、真っ直ぐに俺を見た。
「ピアノ、弾いて」
「理人さん……」
「俺のためだけに」
……ああ、もう。
「……理人さん」
「ん?」
「やっぱり、俺のスイッチを押してるのは理人さんです」
「は!?」
理人さんは、わかってない。
俺がいつも、どんな気持ちでピアノを弾いているのか。
たとえそれが結婚披露宴であっても、俺がラブソングを捧げたい相手はたったひとりだけ。
理人さん、
俺はいつだって、あなたのために――
fin
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