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最終章

ひとは、失ってはじめて本当に大切なものに気付くという。 それはまるで、神から与えられた渾身の罰。 すぐ傍にある幸せを顧みず、蔑ろにした者への戒め。 傷つけた者への報い。 「理人さん、今夜はなに食べたいですか?」 「うーん、あっ、アイ……」 「スはだめです」 「じゃあクリームソー……」 「ダはご飯じゃありません」 「じゃ、じゃあ、かき……」 「氷はお風呂の後でっていつも言ってるでしょ?」 「プハッ!なにお前ら、コント?それとも夫婦漫才のつもりかよ?」 「う、うるさい笑うな!」 いつもどおりの日常。 ささやかな幸せ。 どれも大切で、愛おしくて、 当たり前だと思ったことなんてなかった。 それなのに。 俺はなぜ、 病院のベッドに横たわる理人さんを見下ろしているんだろう。

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