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終-1:午後9時の予感 (2)

サービスエリアでのトイレ休憩を終えて、移動を再開する。 題して、 3泊4日伊勢志摩の旅with理人さんinレンタカー! と、いったところだろうか。 理人さんが準備したガイドブックは、全部で八冊もあった。 一緒に行き先を決めたいから、と気になるものを片っ端からお買い上げしてきたらしい。 北海道、東北、京都、沖縄、韓国……ふたりでソファに座り込み、「うーん」と唸りながらめくっていたページがふと止まったのは、理人さんが『まっぷるるん伊勢志摩』を読み流していたときだった。 あっ、と高い声が聞こえて振り返ると、アーモンド・アイがキラキラ輝いていた。 理人さんが釘付けになっているページを覗き込むと、見開き一面に、色とりどりの魚が泳ぐ青い海が広がっている。 その中央では、〝人魚のモデル〟とも言われるジュゴンが泳いでいた。 「あ、鳥羽水族館ですね」 「佐藤くん行ったことある?」 「はい」 「そっか……」 「水族館行きたいんですか?」 「……うん」 「じゃあ、行きましょう」 「えっ、い、いいの?」 「いいですよ。なんで?」 「行ったことがないところ、行きたいかなって思って……」 「大丈夫です。行ったことあるって言っても小学校の遠足とかなんで、ほとんど覚えてないし」 「そ、そうか!」 「それに、俺は理人さんが行きたいところに行きたいです」 「えっ……」 「そしたら子供みたいにはしゃぐかわいい理人さんが見られるでしょ?」 「なっ……」 「だから俺は、理人さんと一緒なら行き先はどこでもいいです」 「もう……なんだそれ」 苦笑いをキスで封じ込め、ガイドブックと睨めっこしながら旅の行程を吟味する。 ありとあらゆるページが、次々にカラフルな付箋で飾られていった。 理人さんははしゃいでいた。 もしかして、『旅行のしおり』を作り出すんじゃないかと思うくらい。 最終的に、伊勢神宮から二見のシーパラダイスに行き、鳥羽水族館を見終えたら、あとはその時の気分のままにパールロードを南に下ってみよう、ということになった。 ガイドブックのオススメリストからいくつか選んで電話し、運良く空室が見つかった宿を予約した。 なんと、そのうちのひとつは露天風呂付きの部屋だ。 旅館。 浴衣。 露天風呂。 考えただけで、もう、いろいろとやばい。

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