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終-1:午後9時の予感 (3)

金曜の朝だからか、高速道路は渋滞もなくスムーズに流れていた。 普通の乗用車よりも、大型トラックが多い気がする。 少しだけ窓を開けると、初夏の清々しい風が車の中を吹き抜けた。 気持ちいい。 昨日までだらだらと降り続いていた小粒の雨がさっぱりと上がり、今日の空は真っ青だ。 時折流れていく白い雲の動きが速い。 そんな絶好の旅行日和……のはずなのに、 「理人さん」 「……」 助手席の理人さんは、ムッスー、と頰をふくらませて窓の外を眺めている。 「伊勢神宮でお参りした後、やりたいことありますか?」 「……おかげ横丁で赤福食べたい」 「いいですね。あとは?」 理人さんは、チラリと俺を見てから、ダッシュボードから『まっぷるるん』を取り出した。 そして、青い付箋のついたページを開く。 「……だめだ」 「えっ」 「選べない……全部気になる」 「全部って?」 「お団子、松坂牛にぎり、スヌーピーパンケーキ……」 「スヌーピー?」 「うん、スヌーピー茶屋がある、らしい。あとこの……きゅうりスティック?」 「ああ、それ美味いですよ」 「ふぅん。あ、醤油屋さんも見たい」 「そこは俺も見たいです。いい醤油がありそう」 「だろ。あとは……招き猫も」 「招き猫?」 「玄関に置いたらかわいいだろ?」 「プッ、そうですね」 理人さんは、ふと斜め上を仰いでから鞄のポケットからスマホを取り出した。 「どうしたんですか?」 「招き猫を調べてる。どっちの手がどういう意味だったかな、って」 「手?」 「確か、どっちかが商売繁盛で、どっちかが……なんだっけ?」 首を傾げて助けを求められるけれど、俺はただ首を横に振った。 招き猫の手の意味なんて、考えたこともない。 理人さんは、慣れない手つきでなにかを入力している。 スマホを見る目がいつになく真剣だ。 「旅館は駅の近くでしたよね?」 「うん」 「それなら近いし、ゆっくり見て回れますよ。先に旅館に車だけ置かせてもらってバスで行った方がいいかな」 「ふぅん?」 理人さんは不思議そうに言い、意識をまたスマホに戻した。

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