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終-1:午後9時の予感 (12)
大浴場から戻ると、ちょうど夕食が準備されているところだった。
「う、っわ!」
理人さんが感嘆の声を上げる。
赤い刺身。
白い刺身。
アワビ。
大アサリ。
広い座卓の表面が見えないくらい、ところせましと海の幸が並んでいた。
「すっご……!」
理人さんはテーブルの周りをぐるぐる周りながら、カシャカシャとスマホを連写している。
今すぐ押し倒したいのを我慢して、炊き込みご飯のおひつを用意してくれている仲居さんに歩み寄った。
「あの……」
「はい?」
「ふたりでゆっくり過ごしたいので、食事の時間を長めにいただいてもいいですか」
「もちろん、かまいませんよ。お食事がお済みになりましたら、そちらのお電話でご連絡いただければ食器を取りに参りますので」
「ありがとうございます」
仲居さんは丁寧に頭を下げ、静々と部屋を出て行った。
うーん、ふたりでゆっくり過ごしたい……は、ちょっとまずかっただろうか。
バレたかな?
バレたかも……ま、いっか。
「理人さん」
「ん?」
「冷めないうちに食べましょう」
「うん!」
「って、なんで隣に座るんですか」
「いいだろ、別に」
いいけど……いいけど!
ああ、もう!
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