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終-1:午後9時の予感 (15)
「理人さん」
「……」
「理人さーん」
理人さんが、ふてくされている。
もそもそ。
もそもそ。
もそもそ。
への字に曲がった唇が、炊き込みご飯をほんの少しずつ含んではもそもそと動き、また少し含んではもそもそと動くことを、淡々と繰り返している。
うーん、どうやら完全にヘソを曲げてしまったらしい。
そんな理人さんもかわいいんだけど……あ、せっかくだから形に残しておこう。
カシャッ。
構えたスマートフォンの画面が一瞬だけ凍結し、続いてマヌケ顔の理人さんを映し出した。
「なに撮ったんだよ」
「理人さんのぶーたれた顔です」
「ぶ……!?」
理人さんのへの字口がわなわなと震える。
「貸せ!消してやる!」
「あっ、ちょっと……!」
俺の手からスマホをもぎ取ると、慣れた手つきでパスワードを入力し始め……あれ?
理人さん、俺のパスワード知ってたっけ?
「なんで違うんだよ……」
「えっ」
「ここは俺の誕生日にしとくとこだろ!」
えぇー。
なんだ、そのかわいい思い込み!
「もしかして、理人さんのは俺の誕生日なんだ?」
「……」
「1208?」
「……チガウ」
あ、絶対そうだ。
「プッ……」
「だ、だいたいなんだよ、この待受!」
「理人さんの寝顔です」
「いつ撮ったんだ、こんなの……」
「うーん……これは夏、かな?」
「全然気づかなかった……!」
「理人さんいつも俺より起きるの遅いでしょ。だから、撮り放題」
「……このやろう」
不機嫌な言葉が、甘い声に乗って漂った。
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