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終-1:午後9時の予感 (17)

「ん、ん……あっ……!」 しっとりと濡れ始めたボクサーショーツを、長い脚から引き抜く。 ぷるんと飛び出してきた理人さんのペニスは、天高く勃起していた。 和の明かりの下でヒクつくそれは、いつもと違うセピア色に縁取られている。 「あ、浴衣……」 「だめ、脱がないで。着たまましたい」 帯を解こうとする手を押しとどめ、僅かにできた隙間から手を差し入れた。 もじもじと擦り寄る太ももの縁をゆっくりと北上し、それを探し当てる。 「ひあっ……で、電気っ……」 「消しません」 「へ、変態!」 「そんな俺が好きなくせに」 「酔っ払い!」 「でも好きなくせに」 「好きだよこのやろう……!」 うん、俺も。 「んっ……あ、ふんぅっ……」 理人さんの唇が、吸い付いて離れない。 さっきまで酒くさいと顔を背けていた空間に自ら舌先を滑り込ませ、頰の裏側を丹念に舐め上げてくる。 まるで、火照った粘膜の舌触りを楽しむように。 ちゅうちゅうと俺の舌を味わい、ふいに離れたところで歯に挟まれた。 背中がぶるっと震え、悪寒に似たなにかが一気に駆け上ってくる。 重なり合ったままの薄い唇が、僅かな弧を描いた。 浴衣越しに感じる熱はどんどん硬くなり、畳から浮いた腰が俺の股間を(まさぐ)ってくる。 「理人さん、押し付けるのやめて」 潤んだ瞳が、ぼんやりと俺を映した。 「正直、俺、もうやばいんです」 「え……?」 「朝からずっと煽られて……もう、限界」 ――早く理人さんの中に入りたい。 睦言を注ぎ込んだ耳は、炎が灯ったように真っ赤に燃えた。 「理人さん、腰あげて」 「えっ……あ!」 座布団を二枚重ね、理人さんの腰の下にねじ込む。 「自分で膝抱えてください」 理人さんの瞳がふるりと揺れて、唇がへの字を描いた。 なにかを訴えるように俺を見上げてくる。 その意味に気づかないふりをして、俺はただ理人さんを見つめ返した。 やがてへの字口が形を変え、真一文字になる。 そしてゆっくりと開かれたそこは、蒸れてテカっていた。 理人さんのすべてが俺の前に暴かれている。 「あっ、あっ、そんなの汚なっ……んぅっ」 衝動に突き動かされるままに、蕾を啜った。 無理矢理舌先を埋め込み、頑なな(ひだ)をひとつずつ解していく。 「ひ、あぁっ……!」 逃げようとする尻肉を掴み、まるで熟れた果実にそうするようにしゃぶりついた。 宙に浮いた脚が痙攣し、その間で反り返った昂ぶりから透明な蜜がぷくりと露になって溢れてくる。 それはやがてトロリといやらしい軌跡を描きながら零れ落ち、引き締まった腹筋を汚した。 座卓の下に腕を伸ばし、畳の上を転がるそれを探り当てる。 パチンと蓋を跳ね飛ばし、柔らかいボトルを握りしめた。 とろりと垂れたそれを割れ目に塗りつけて、ずぷりと差し込む。 柔らかな内壁が、まるで歓迎するように俺の人差し指を温めた。 「ふ、あ、あぁんっ……」 ゆっくりと回転させると、窄まりが指の根元に吸い付いてくる。 ローションの滑りを纏うようにゆっくりと引き抜き、また差し入れる。 媚薬のように甘い嬌声が響くたびに、内壁が蠢く。 ふいに、畳に爪を立てていた理人さんの左手がなにかを求めて彷徨った。 長い指が淫らな雫に塗れる前に、その手を捕らえる。 「こら、触っちゃだめ」 「あっあっあぁっ!や、やだっ……!」 指を二本に増やすと、細い身体が妖艶にしなる。 畳に縫い付けた理人さんの左手が、激しく抗った。 「さ、さわりたいっ……佐藤くん、さわって……っ」 「嫌です、触ってなんてあげない」 「な、なんでっ……」 「今日はここだけで感じてください」 桜色に縁取られた(まなじり)から大粒の涙が溢れ、こめかみを伝う。 「お、おしりだけなんてそんな、こ、怖……こわい……っ」 「理人さんってほんと、泣き虫ですよね。怖がりだし」 「う、うるさい……っ」 「俺と出会うまで、どうやって生きてきたんですか?」 「そんなの、もうお、覚えてなっ……んんんっ」 指の腹を押し当て、敏感な膨らみを優しく虐めた。 白い喉が仰け反り、アーモンド・アイが瞼に隠れて見えなくなる。 「やっ、いやっ……」 「嫌?ほんとに?」 「ほ、ほんとにま、待って……!」 渾身の力で、手首の動きを封じられた。 ぬちゃぬちゃと粘っていた音が止み、理人さんの熱い息遣いだけがぬるい空気の上を漂う。 正しい輪郭を取り戻したアーモンド・アイが、焦れた情欲を燻らせたまま俺を見上げた。 「……はあ」 乱れた呼吸の合間に、ふと漏れる安堵のため息。 だめですよ、理人さん。 今夜は、我慢なんかさせてやらない。 「あっ、あっ、やめっ、ん、んん――っ!」 拘束を振り切りなかを抉ると、理人さんの足の指が畳を抱え込んだ。 触れていなかったそこから白濁が弾け飛び、群青色の布にさらに色濃い染みを作り出す。 きつく閉じられた瞼の隙間を縫うように、ぼろぼろと涙の粒がこぼれた。 「はあっ……はあっ……」 「うしろだけでイけましたね。気持ちよかった?」 「も、ほんと、うるさい……っ」 目尻に溜まった雫を唇で吸い取り、ぬぽん、っと指を引き抜く。 んっ、と不快そうな声を上げ、理人さんは全身を震わせた。 慰めようと伸ばした手が、髪にたどり着く前にぎりぎりと締め上げられる。 「理人さん……?」 「俺もやる!」

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