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終-1:午後9時の予感 (19)

「ただいま」 「おかえりなさい」 「おかえり」 「ただいま」 四日ぶりに帰宅した自宅は、蒸し暑かった。 両手に荷物を抱えたままサンダルを投げ飛ばし、たどり着いたリビングの絨毯の上にドサリと落とす。 なにはともあれまずは……と、エアコンのスイッチを入れると、寝室からもピッと高い音がした。 キッチンで手を洗い、ソファに深く沈み込む。 すると、額がふいに冷たくなった。 見上げると、茶色い液体がグラスの中で美味しそうに揺れている。 「運転お疲れ様」 「ありがとうございます」 氷ごと麦茶を流し込むと、ずっしりと重かった身体が少し軽くなった気がした。 「荷ほどきは明日でいいよな?」 「そうですね。あ、洗濯物だけ……」 「俺がやる」 淡い笑みを寄越してから、理人さんがボストンバッグの中をがさがさやり始める。 手を貸そうと腰を上げかけ、でもすぐにまたソファに舞い戻った。 大切な人を助手席に乗せての運転は、想像以上に骨が折れたらしい。 今夜は甘えさせてもらおう。 目を瞑り、冷えたグラスの底を瞼に乗せる。 気持ちいい。 しばらく暗闇を漂う不思議な光に意識を集中していると、どこかからなにかが振動する音が聞こえた。 「理人さん」 「ん?」 「電話、鳴ってる」 キッチンカウンターで震えていたスマートフォンをひっくり返し、理人さんが眉を寄せる。 「なんだ?珍しいな……」 「え?」 部長だ、とひと言言い残し、理人さんはスマホを耳に当てた。 「もしもし、神崎です。お疲れ様です。……ええ、はい。明日は出勤します」 言葉を紡ぐ淡々とした声が、どんどん遠かっていく。 細い背中が奥の部屋に消えたのを見届け、俺は重い腰を上げた。

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