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終-2:午後0時の祈り (3)

なぜだろう。 じっとりとした汗が、次から次へと湧き出てきて引かない。 理人さんからLIMEの返事がない。 なんら珍しくもない、いつものことだ。 既読がつかないのも、仕事中だからだと簡単に説明がついてしまう。 それなのに、どうしてこんなにも不安なんだろう。 スマートフォンを握る手が震える。 具体的な映像なんてなにも浮かばないのに、ただ嫌な予感ばかりが脳裏を過ぎる。 胸騒ぎがおさまらない。 「佐藤くん?」 「あ……はい」 「どうしたの?顔色が悪いけど……」 宮下さんの言葉尻をかき消すように、にわかに外が騒がしくなった。 けたたましいサイレンの音と一緒に、赤い光が回転しながら近づいてくる。 心臓の鼓動が不自然に逸り、ふいに催した吐き気を頭を振って揉み消した。 救急車がどうした。 毎日最低三度は聞いている馴染みの音じゃないか。 たくさんの人が行き交うオフィス街。 人口密度が上がる日中は、得てしてさまざまなことがあちこちで起こる。 特にこのビルを挟み込む道路は左右どちらも幅広く、近くには大きな病院もある。 救急車だけでなく、パトカーがドップラー効果を撒き散らしながら通り過ぎていくことも多かった。 でも、目の前に横付けされるのを見るのは初めてだ。 外を行き交う人たちが、好奇心丸出しの視線を向けながら通り過ぎていく。 赤と白の救助服に身を包んだ人たちが救急車から降り立ち、ストレッチャーを押しながら慌ただしくビルの中に飛び込んでいった。 宮下さんが心配そうに顔をしかめながらも、「ドラマみたいだね」とどこかワクワクした様子で俺を見上げてくる。 曖昧に頷き視線をずらすと、見覚えのある警備員が大きく手を振りながら彼らを誘導していた。 ガラス越しに、人が集まっているのが見える。 あそこは確か、荷物搬入用のエレベーターホール。 「さ、佐藤くん!」 宮下さんが、唐突に俺の制服を強く引っ張ってくる。 「あ、あれ……!」 青ざめ震える彼女の視線の先を追い、俺は完全に呼吸を止めた。 救急隊員に抱えられ、ひとりの男がストレッチャーに乗せられている。 その身体は長く、細い。 耳元でなにかを呼びかけられているが、横たわった男は微動だにしない。 頭が不安定に揺れている。 それを抑える隊員の白い指の間から、色の綺麗な髪がはみ出していた。 ふいに男の身体が大きく痙攣し、激しく嘔吐(えず)き始める。 抱き起こされた男は黄色い液体を口から吐き出し、そしてがっくりと項垂れた。 だらりと力なく垂れた左手の薬指が、キラリと青く光った。

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