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終-2:午後0時の祈り (4)

重い扉を押し開け廊下に飛び出すと、それまでくぐもっていた音が一気に大音量になった。 狭い空間に、たくさんの人がひしめいている。 スマホで電話をかけている人、ただ青ざめて佇む人、興味津々で背伸びする人。 その中心から、ガラガラと耳障りな音を立ててストレッチャーが運び出されてきた。 細長いシルエットが、僅かな段差にも煽られ上下に跳ねている。 目の前を通り過ぎていく、青白い顔。 髪は乱れ、絡まっている。 頑なに閉じた瞼も。 頰も。 ほんの少しだけ開いた唇も。 すべてが白く、 とても、 綺麗だ。 「神崎さん!神崎理人さーん、わかりますか!?」 ハッと我に返る。 スローモーションのように淀んでいた光景が、急に動きを取り戻した。 カチャカチャと硬い金属音を立てながら、ストレッチャーが遠ざかっていく。 「……理人さん」 人だかりをかき分け、走った。 「理人さん……!」 ストレッチャーに並走していた男が、勢いよく俺を振り返る。 「三枝!」 木瀬さんの視線は、俺を通り越して道路に身を乗り出していた人物に突き刺さった。 「そいつ、佐藤くん!一緒に連れてきてやって!」 理人さんと木瀬さんを乗せて、救急車が走り出す。 俺は押し込まれるように、タクシーの後部座席に乗り込んだ。 「明済会(めいさいかい)病院まで!急いでください!」 緊迫した声音に押されるように、タクシーが勢いよく動き出した。 救急車がサイレンが、どんどん遠ざかっていく。 台形の車窓の中を、見慣れた街並みが解けた巻物のようにどんどん流れていった。 ふいに、車体が大きく前につんのめる。 赤信号だ。 エンジン音が止み、車内が静寂に包まれた。 カサカサと布が擦れる忙しない音だけが、不気味に際立っている。 「いったいなにが、あったんですか」 貧乏ゆすりが止まった。 三枝さんは震える両手で眉間を挟み込み、手のひらの間に繰り返し浅い息を吐き続けている。 やがて、掠れた声が言った。 「酒、飲まされた」 「酒……?」 「逆恨みしやがって……!」

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