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終-2:午後0時の祈り (9)
『家族控え室』は小さな和室で、中心に丸いちゃぶ台がひとつ置かれているだけだった。
それでも無機質な白い壁に囲まれた空間よりは、いくらか心が落ち着く。
靴を脱いで畳に上がる前に、入り口の洗面台で手と、ついでに顔も洗った。
ほんのり薄い紅色に変わった水が排水溝へ流れ落ちていくのを見届け蛇口を捻ると、視界に黒いハンカチが差し出された。
「俺のでよければ」
「あ……すみません、ありがとうございます」
木瀬さんはただ淡く微笑んだ。
「なにもないな。コーヒーでも買ってくるか。ブラックでいいんだっけ?」
「……」
「佐藤くん……?」
四角い鏡の中に、俺がいた。
髪はボサボサだし、目は充血してるし、まだコンビニの制服を着たままだ。
乱れた襟口から、鎖骨が見えた。
ない。
――いなくならないですよね……?
――ならないよ。
――ほんとに?
――うん。
――じゃあ、証拠ください。
――証拠……?
ああ。
消えてしまった。
――つけて。
約束の印が。
「佐藤くん、ちょっと休んだ方が……」
「……なんで」
「え?」
「なんで、こんなことになったんですか」
「……」
「なんで理人さんがこんな目に……!」
あの人が、なにをした?
なにも悪いことなんてしてないだろう。
人よりたくさん辛い思いをして、人よりたくさん乗り越えてきたんじゃないか。
それなのになんで!
なんで理人さんが……!
「……俺のせいだ」
「え……?」
「俺が、長谷部を告発した」
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