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終-2:午後0時の祈り (14)

もうすぐ、日付が変わる。 「あとは本人の生命力に賭けるしかない」 桐嶋先生は〝できる処置〟をすべて施したあと、悔しそうにそう言った。 ――ドラマみたいだね。 宮下さんの言葉が蘇る。 驚くほどしっくりきて、思わず乾いた笑いが溢れた。 あまりに現実味がないのだ。 すでに起こったことも、今目の前で起こっていることも、すべてが遠く感じる。 今朝理人さんの隣で目が覚めた時は、まさかこんなことになるなんて思わなかった。 二度寝しそうになった理人さんを起こして、寝起きの理人さんの姿にムラムラして、むしゃぶりつきたいのを我慢しながら朝ごはんを……ああ、そうだ。 伊勢で買った魚皿を使ってみたいと強請られて、珍しく朝から魚の塩焼きなんて作ってしまったんだった。 俺、理人さんの言うこと聞きすぎじゃないか? 香ばしいにおいが充満するキッチンでそんな自虐が浮かんで、でも焼きたて熱々の魚をはふはふ言いながら必死に頬張る理人さんを見てたら、まあいっか、なんて思った。 それから、理人さんのネクタイ選びに付き合って――… 「行ってきます」 「はい、行ってらっしゃい。またお昼に」 「うん……」 「どうしたんですか?」 「ひとりで出勤するの、やだ」 「プッ、なんでですか」 「……なんででも」 「もう、しょうがないなあ」 への字口の理人さんを慰めるために、もしかしたら初めてかもしれない玄関先での〝いってらっしゃいのキス〟を交わした。 もしもあのとき俺も一緒に家を出ていれば、なにかが変わったんだろうか。 これがテレビドラマで理人さんが主人公なら、理人さんは死なない。 必ず目覚める。 でももしも、主人公じゃなかったら――? ピッ……ピッ……。 高い電子音が、理人さんの生存を機械的に知らせてくる。 触れた手が冷たい。 指先はさらに血の気がなく、まるで氷のようだ。 いつかの理人さんの言葉を思い出す。 『俺は生きてて身体があったかいから、風花を捕まえられないんだ。 父さんと母さんは冷たかった。 そりゃそうか、死んじゃったんだもんなあ……』 俺にも、今日のことをあんな風に儚い笑顔で語る日がやってくるのだろうか。

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