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終-2:午後0時の祈り (15)
扉の向こうを、人の気配が行ったり来たりする。
見舞いに来ていた人たちは、もうほとんど帰ってしまった。
思い思いの言葉で理人さんに別れを告げ、悲しみを抱きながらも〝いつもの日常〟に戻っていった。
彼らが再び太陽の光を浴びる時、理人さんの心臓はまだ動いているんだろうか。
冷え切った左手を持ち上げ、ポケットから取り出した指輪を長い薬指にはめる。
手のひらで挟み込むと、ふたつのエンゲージ・リングが重なり合い小さな音を立てた。
俺が理人さんの指にこれを通すのは、これが二度目。
一度目は、手が震えてやたら時間がかかった。
――俺と結婚してください。
ひと晩かけて考えたおしゃれかつロマンチックなプロポーズの言葉は、真っ白になった頭の奥のまた奥の方に吹き飛ばされ、ひと言も下りてこなかった。
乾いて痛む喉からかろうじて絞り出せたのは、ありきたりな定型文。
それでも理人さんは優しく微笑み、深く……深く頷いてくれた。
ふたつのアーモンド・アイに透き通った涙を浮かべながら。
老若男女の誰もが振り向くほどのイケメンで、
恐ろしく仕事ができるくせに、
怖がりで、
泣き虫で、
頑固で、
偏食で、
エロくて、
嫉妬深くて、
思い込みが激しくて、
なにかを食べている時は子供みたいに目をキラキラさせてるくせに、
まるで狩人 のように俺の心をピンポイントで射抜き、翻弄してくる。
理人さんは城のてっぺんに囚われたままその時を待つプリンセスじゃないし、もちろん俺も王子様なんて柄じゃない。
それでも俺は、そこに唇を押し当てた。
このキスが、目覚めのキスとなりますように。
そう――祈って。
ピッ……ピピピッ……ピピッ……。
ふいに、電子音が乱れた。
ハッと顔を上げ、ナースコールのボタンを視線で探す。
でも、異常を知らせる警告音は鳴らなかった。
モニター上に描き出されている波形も、規則正しいリズムに戻っている。
ホッと息を吐き、理人さんの手を握り直した。
すると、
ピクリ。
その手が、動いた。
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