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終-2:午後0時の祈り (18)

「理人さん」 「……」 「理人さーん」 ああ、もう。 いったい何度目のデジャヴだ、これ? 「あーあ、せっかく普通食解禁記念のアイス買ってきたのになあ」 「……」 「しかも、ツーゲンダッハのプレミアムバニラ。もちろん、バニラビーンズ入り」 「……」 「しょうがない。理人さんが食べないなら、俺がひとりで……」 「食べる……っ」 ああ、もう。 ほんとかわいい。 「美味しい……!」 「プッ」 「な、なんだよ」 「嬉しいんです。理人さんがちゃんと生きてるから」 あ、今の言い方はちょっと意地悪だったかな。 理人さんがちょっと困ったような顔になった。 でも、しょうがない。 瞳を輝かせてスプーンに山盛りにしたアイスを頬張る理人さん。 への字口で頰を染める理人さん。 一度は諦めかけた光景が、動く理人さんの姿とともにまたそこにある。 俺はそれが、ただただ嬉しい。 「あ、点滴減ったんですね」 右腕から延びる細い管の先にぶら下がる薬液のバッグが、三つからふたつになっていた。 「うん。明日退院できる?」 「プッ、さすがに明日は無理ですね」 「早く帰りたい……」 「それは理人さん次第でしょ?」 「う……うぅ……」 理人さんが、アイスのスプーンを噛み締めながら唸る。 俺はなんだかいろいろとたまらなくなって、理人さんをアイスごと抱きしめたのだった。

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