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終-2:午後0時の祈り (19)

「忘れ物ないですよね?」 「大丈夫だと思う」 「じゃあ、行きましょうか」 「……うん」 それからちょうど二週間後、理人さんは退院した。 すっかり秋の深まった外の空気に一瞬怯え、でもすぐに力強く歩き出した。 地面を蹴る足がどことなく弾んでいる。 そして俺は、そんな理人さん以上に浮かれていた。 また一緒に暮らせる。 ふたりで生きていける。 そう実感すればするほど、世界が鮮やかに輝いて見えた。 「忘れ物ないですよね?」 「うん、大丈夫だと思……あ、途中で会社に寄っていい?」 「だめです、道草禁止」 「えっ」 「木瀬さんと三枝さんから、理人さんはきっとそう言うだろうけど絶対に連れてくるなって昨日釘刺されました」 「くっそ……」 「今日くらいいいでしょ。ゆっくりしてください」 「……ん」 左手と右手を取り合い、歩き出す。 「今日はなに食べたいですか?」 「うーん……あっ、アイ……」 「ス以外で」 「……くっそ」 「プッ」 「じゃあカルボナーラ!」 「いいですね。木瀬さんと三枝さんにも声かけてみましょうか。理人さんの退院祝いディナーってことで」 「なんか大袈裟だな……」 「そうですか?ちょうどいいくらいでしょ」 「じゃあ、五人分の材料買って帰るか」 「五人分?」 「航生が来るなら、渋谷も一緒だろ」 「そうですね」 取り戻した〝いつもの日常〟がそこにあった。 「理人さん」 「ん?」 「好きです」 「……俺も」 唇と唇がピタリと合わさった。 冷たい風が、熱い思いをぶつけ合う俺たちの間をすり抜けていく。 俺たちは、知らなかった。 本当の戦いは、まだ始まったばかりだということをーー。

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