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終-3:午前10時の旅立ち (5)
「お、浮気現場発見」
ハッと顔を上げると、寝室の入り口で理人さんがさも可笑しそうに笑っていた。
水色のタオルでガシガシと髪の毛をかき混ぜながら、視線はしっかりと俺の手の中にあるスマホに注がれている。
心臓がどくんと不自然に大きな鼓動を打った。
思わず咄嗟にロックをかけてサイドボードに置くと、理人さんの眉間に深い皺が刻まれる。
しまったと思った時にはもう遅く、
「ぐへっ!」
ダイブしてきた細い身体に無理矢理押し出された空気が、無様な音を立てて弾けた。
チカチカと点滅する視界の中で、『スリーピース』柄のパジャマが翻る。
所せましと並ぶトフィの笑顔がなんとも憎らしい。
「い、痛いです、理人さん」
「えらく真剣だったな。誰とLIMEしてたんだよ?」
理人さんが、俺の鳩尾を尖った肘でぐりぐりしながら詰め寄ってきた。
ついさっきまで緩やかな弧を描いていた唇が、あっという間に勾配の急な山の形に変わっていく。
「ちょっと地元の友達と……」
「ほんとに?」
「ほ、ほんとです」
「……怪しい」
まん丸だった目がすっと平らになり、その奥から疑ぐり深い視線がじっと俺を見据えてくる。
嘘を吐いてしまった罪悪感がふつふつと湧いてはくるけれど、まさか木瀬さんとあなたのことについて話してました、なんて言えるはずがない。
つい顔を背けると、耳の付け根にぼたぼたと水滴が降ってきた。
「うわっ!髪の毛ベッタベタじゃないですか!」
「すぐ乾く」
「だめです。風邪引きますよ!」
「んー……じゃあ、佐藤くんやって?」
俺の腹に体重を預けたまま、理人さんが首にかけていたタオルをするりと解いた。
そして、小首を傾げながら差し出してくる。
俺はさっきとは違う意味で呻いた。
だから、そういう風にされると、必然的に上目遣いで見つめられることになるわけで……ああ、もう。
「しょうがないなあ……」
湿った頭を、わざと乱暴にかき乱す。
束になって揺れる前髪の向こう側で、ふたつのアーモンド・アイが気持ちよさそうに微笑った。
「男?女?」
「なにがですか?」
「その、地元の友達」
「……男です」
「なんで今ちょっと迷ったんだよ」
「だってどっちって答えても、理人さん妬くでしょ」
「はー?妬くかよ、そんなことで」
「え、妬いてくれないんですか?薄情だなあ」
「……このやろう」
途端に、理人さんの頰がふてくされた。
俺の手の動きに合わせて大人しく右へ左へと揺さぶれていた身体が、急に反抗的になる。
理人さんは両腕をベッドに突っ張ると、上半身を仰け反らせた。
風呂上がりの暖かい股間が、俺の冷えた下半身をぎゅうぎゅうと押し潰してくる。
まるで、熱を分け与えようとするかのように。
「んうっ……ちょっと理人さん!」
そんなことしたら――…
「しよ?」
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