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終-3:午前10時の旅立ち (7)

『心配しすぎ』 この二ヶ月、何度も言われてきた言葉だ。 その度に、理人さんは困ったように笑っていた。 それでも俺はまだまだ心配し足りないくらいだと思っていたし、木瀬さんや三枝さんも同じだったと思う。 あの時理人さんが意識を取り戻したのは、ほとんど奇跡だった。 一度目を覚ましてからも、理人さんの容態は『いつなにが起きてもおかしくない』状況が続いていた。 そして、事件から三日目の朝。 「さとう……っん」 今度こそ本当に、理人さんが俺を呼んだ。 その声はとてもか細く掠れていたけれど、そうしてようやく、それまで厳しかった桐嶋先生の表情が和らいだのだ。 それから、ひとりでトイレに行けるようになるまで一週間。 普通に食事ができるようになるまで、さらに一週間。 ――信じられない回復力。 受けたダメージを顧みれば、誰もが驚きそう称したくらいのスピードで理人さんは元気になっていったけれど、俺は……俺たちは、理人さんが咳込むたびにまた血を吐くのではないかとハラハラし、眠っているいる時は必ず口元に手をかざして呼吸の有無を確認した。 理人さんはもう、通院も服薬もしていない。 主治医の桐嶋先生だけじゃなく、兄貴も『すっかり元どおりの健康体』になったと太鼓判を押した。 そういう意味では、完治している――のかもしれないけれど。 「もう、前みたいにはしてくれないんだ?」 穏やかだった声に、静かな怒気が混じった。 俺の昂ぶりを左手で鷲づかみにしたまま、理人さんが怒っている。 「そ、そういうわけじゃ……」 「いいよ、別に。俺がやるから」 「はい……?」 あんなに執着していた俺のそれをぺいっと放ると、理人さんは勢いよく身体を起こした。 ホッと安堵したのもつかの間、トフィの笑顔溢れるズボンをいきなり脱ぎ捨て、天を指すそれを露わにする。 まさかノーパンだったのか!? 理人さんは微動だにできずにいる俺を見下ろし、おもむろに跨った。 先端が、割れ目に触れる。 「ちょ、まっ、理人さん!せめて慣らしてからっ……」 「自分でやった」 「え……?」 「さっき、お風呂で解してきた。だから、もう挿れて?」 相変わらず渇きを知らない瞳が、電気の光を反射してキラキラと輝いている。 かわいい……かわいい? 目をうるうるさせてお強請りする理人さんは、かわいい……はずなのに、どうしてそんな今にも泣きそうな表情(かお)―― 「……っ」 二ヶ月ぶりに侵入するそこは狭く、乾いていた。 「うっ……いっ……!」 理人さんが苦しげに呻く。 「ああもう!やっぱり痛いんじゃないですか!」 いくら風呂で解したと言っても、ただでさえ久しぶりなのにローションもなしでいきなり挿入するなんて、痛くないわけがない。 「あっ、やだ!抜くな!」 圧を和らげようと細い腰に添えた手が、長い指に制止される。 「理人さん……?」 「痛いの、ほしいから……っ」 「えっ……」 「佐藤くんを……もっと、ちょうだい……?」 ギチギチと悲鳴を上げる(あな)を容赦なく痛めつけながら、理人さんがほとんど無理矢理腰を浮き沈みさせる。 苦しげに歪むふたつのアーモンド・アイの奥で、黒い瞳が恍惚と煌めいていた。

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