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終-3:午前10時の旅立ち (30)

キッチンカウンターの食い込んだ腰が痛い。 「んっ……ん、んっ……」 強張った腹筋を色素の薄い毛先に擽られ、その度にじゅぼじゅぼと唾液の絡む音がする。 「はっ……ん、むっ……」 腰骨を撫でてていた右手がするりと滑り、与えられる快感に素直に反応して収縮していた双玉をそっと掬い上げた。 「ぐっ……ま、理人さん……!」 夢中でくっ付いたり離れたりしていた頭部の動きが止まり、同時に鼻から抜けるような甘い声が止んだ。 ふたつの瞳が、綺麗なアーモンドを象ったまま俺を見上げてくる。 「ん……らに?」 「そっ、のまま喋らないでください。もうっ……」 「出そう?」 もみもみもみもみ……って、だから! 「手!」 「手?」 「分かってるでしょ!」 理人さんはまたニヤリと笑い、ぐっぽんぐっぽん、じゅっぽじゅっぽとこれでもかと音を立てながら口淫を再開した。 その最中にも相変わらずきゅうきゅうと縮こまる陰嚢を絶妙な強弱をつけながら揉みしだかれ、せり上がってくるものを誤魔化せなくなってくる。 「う……!」 「らんで我慢してんらよ?」 「だ、だって……!」 まだ始まって五分も経っていない。 ケーキのスポンジだってまだ焼けてないし、いちごだってまだスライスし終わってないし、それなのに……それなのに! 「あ、う――っ!」 こんなに簡単にイくとか……! 「はぁっ……はぁっ……」 「気持ちよかった?」 「よかったですよ、こんちくしょう」 理人さんは、意味深な視線を寄越しながら口元を袖口で拭った。 はいはい、わかってますよ。 今夜も、 「まずっ」 でしょ。 だったらそんなもん飲むなよ、こんちくしょう! 「なに拗ねてんだよ?」 「拗ねてません!フェアじゃないって思っただけです」 「なにが?」 「仕返ししたくてもできないし、俺ばっかりヤられっぱなしじゃないですか」 理人さんは、相変わらず勃たない。 一日の容量はだいぶ減ったけれど、薬の副作用がまだ続いているせいだ。 でも、理人さんにそれで苦しんでいるという様子はすっかりなくなってしまった。 なぜなら、志生野先生が勧めてしまったからだ。 ――英瑠君さえ嫌でなければ、そういう行為も決して悪いものではないと思うよ? いや、俺が嫌がるわけないでしょう。 理人さんと目が合うだけでムラムラする俺ですよ? そんな俺だから、理人さんがしたいって言うなら喜んでご開帳しちゃうし、それで理人さんの精神状態が安定するなら願ったり叶ったりだし、俺は気持ちいいし。 ああ……こんなことばかり考えていたら、「セックスなんてどうでもいい」なんてかっこつけていた一ヶ月前の自分に張り倒されそうだし、なんだかまたムラムラしてきたじゃないか。 「あれ?佐藤くん、また勃って……」 「触らないでください。ただの生理現象です」 「ふはっ!なんだそれ?」 最近の理人さんは、以前のように声を上げて笑うことが増えてきた。 そんな理人さんを見られるのが俺は幸せだし、本当に楽しそうに笑う理人さんは世界一かわいいし、そんな理人さんを見つめる俺はまたドキがムネムネ……じゃないや、煩悩がムラムラとその音を立て始めて―― 「理人さん、やっぱり……」 もう一回――とお強請りしようとしたところで、 ピーンポーン! 「こんな時間に誰……えっ!?」 理人さんが突然明るくなったインターフォンのモニターを見て固まる。 そこに映っていたのは、おーいと手を振る父さんと母さんだった。

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