487 / 492
終幕 (3)
食事を終え戻ってきた父さんたちと入れ替わりに、病院を後にする。
道路を挟んで向かい側のバス停留所に着くと、隣から深く、長いため息が聞こえた。
「生まれたての赤ちゃんってあんなにちっこいんだな……」
「可愛かったですね」
「うん。でも怖かった……!」
「理人さん、抱っこする手が震えてましたもんね」
「だってあちこちふわふわだし、グラグラだし、ふっにゃふにゃだし……あーでもかわいかった!」
今は空っぽになってしまった両手を見下ろし、理人さんがほうっと息を吐いた。
興奮冷めやらない様子のアーモンド・アイが、夕陽を反射してキラキラと輝いている。
まったく……かわいいのはどっちなんだか。
「もしかして、子供欲しくなりました?」
「えっ?」
「絶対に無理ってことはないと思いますよ。俺か理人さんのどっちかが父親になるとか、養子を取るとか、探せば方法はあると思います」
もちろん一筋縄ではいかないだろうけれど、俺も考えたことがないわけではないし、子育ても理人さんとなら頑張れる気がする。
「どっちにしても入籍が先ですけど、理人さんが望むなら俺は……」
「やだ」
「へっ……?」
「いらない、ほしくない」
「そ、うなんですか?」
「だって、子供に佐藤くん取られたくない……」
……ああ。
ああ、もう。
あああああああああもう、この人はまったく!
「んっ……ふっ……う」
衝動に突き動かされるままに停留所の陰に引っ張り込み、尖っていた唇を掬い取る。
すぐに応えるように舌が差し出され、でも捕らえる前に遠ざかってしまった。
俯いた理人さんの頰が赤い。
「理人さん?」
「最近その、薬、減っただろ」
「そうですね」
「だから……その、今夜……」
「今夜?」
「……したい」
「理人さん……ほんとに?」
「……うん」
ほんのりと熱を帯びた額が肩に埋もれ、冷えた指先が俺の手から体温を奪った。
ともだちにシェアしよう!