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終幕 (4)

パチン、パチン。 爪を切る音が、静寂を切り裂く。 合間に耳を済ませると、奥の方から断続的な流水音が聞こえた。 東京に来てからの俺たちの自宅は、1LDKのシンプルなアパートだ。 築10年、最寄り駅からは俺の足で徒歩15分、8階建ての5階の真ん中。 賃貸だし、あのマンションとは比べ物にならないくらい狭いけれど、その分どこへ行っても理人さんを近くに感じられる。 それがなんだかとても心地いい。 「お待たせ……」 ほかほかと湯気を上げながら、理人さんが部屋に入ってきた。 俺を見るなりギョッと目を見開き、慌ててそこから視線を逸らした。 「ま、前くらい隠せよ」 「今さらでしょ?どうせすぐ脱ぐんだし」 「……なんで爪?」 「傷つけたくないから」 パチン、と最後の爪を切り終えると、理人さんの顔が真っ赤に染まった。 緩みそうになる頰を誤魔化しながら、爪切りの中身をごみ箱に捨て、理人さんに向き直る。 「おいで」 バスタオルが、はらりと落ちた。 内腿を擦り合わせながら、理人さんが一歩ずつ、ゆっくりと歩み寄ってくる。 手の届く距離に来るのを待って、一気に引き寄せた。 「ん、ふ……!」 乾いていた唇は、お互いの唾液ですぐに潤った。 ミントの爽やかな香りを汚すように、口内の粘膜を舌先で網羅する。 まるで競い合うように、角度も、深さも変えながら、吐息の出口を奪い合う。 薄くなりすぎた酸素を求めふと唇が離れると、理人さんの鼻がスンとかわいく鳴いた。 見上げると、僅かに押し上げられた瞼の隙間から、透明な滴がはらはらと舞い落ちてくる。 「もう、泣き虫」 「だって……」 頰を拭った親指を掬い取り、理人さんが下へ下へ……と導いていく。 たどり着いたそこは硬く、ほんのわずか起ち上がっていた。 「これ……」 「……うん」 「勃ってる」 理人さんが、今にも泣き出しそうに笑った。 「待たせてごめん」

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