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第48話
マリー
……
俺は何を見ているんだ?
公務を終え、自室の扉を開けて視界に飛び込んできた光景が信じられなかった。
自分の惚れた相手が別の男に跨っていたのだ。
上半身ははだけて華奢な身体を晒していた。
頬は赤らみ俺が見たこともない表情で笑い相手と楽しんでいたのだ。
血の気が引いていく反面怒りでヴァノをぶん殴っていた。
何度も何度も……あの光景が頭から離れない。
ここ数日戻らなかったから?
俺以外の奴に手を出しただって?
才が?
俺が選んだ才が?
才がここに来てから、毎日が特に寝起きするのが楽しかった。
寝るときベッドの端で寝ている才を引き寄せ、寝顔を見つめ優しい体温に癒されながら一緒に眠った。
駄目だと言われつつも、キスだけをこっそりすると冷え切った自分の胸がドキドキすることを知った。
嫌な鼓動ではない。
眠っているこいつをいつまでも見ていられる……
そんな自分が妙におかしくて照れてしまった。
俺といれば俺のことをきっと好きになってくれる。
愛してくれる。
その反面、自分がしていることを才にどう説明しようかと考えて言えずにいたのだ。
この国の為とはいえ、恐らく怯えさせてしまうだろう。
それでも、止めることは出来ない。
だけど才ならわかってくれるだろう。
そう思っていた。
でも酷く裏切られた気分だ……
液体滴る右腕をそのままに、寝室へと向かう。
自分の身体が怒りと失望で震えているのがわかった。
冷たい……身体も…心も……
脳裏の片隅で才に手を出すことをなんとか我慢することができたが、顔も見たくなかった。
こんな場所にはいたくない……
暗殺者であると知って怯えている……
そう……
俺はそう血の中に埋もれて生きて来た。
誰にも理解されはしないだろう。
……誰にも……
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