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第49話

******** 「才ちゃーん、また溜息ついてるよ」 「……」 「老けるよ~どうしたの?悩み事?石油王と何かあった?」 「ん、何でもない……」 弟の爽良(そら)に溜息のことを言われて気がついた。 そんなについてるかな。 溜め息。 たぶん石油王とはマリーの事だろう。 母さんがどうやらマリーのことを外国の大富豪ということにして、弟に説明したみたいだった。 冷たいお茶を飲み干して、自分の部屋へと戻る。 リビングにはなぜか居たくなくて、すぐに二階へ上がってしまうんだ。 あれから数日が経ち、俺は家から出ることなく引きこもっていた。 ベッドに寝転んで考えることはいつも決まっている。 …… マリー…… マリーは今何をしているだろう。 元気にしてるかな。 ……ヴァーノンさんはどうなったんだろう……まさか死んでしまったのだろうか。 あの時の血……思い返すだけで胸が苦しくなる。沢山ついていた…… 俺のせいだ……俺が勘違いわれるようなことをしたからマリーはあんなことを…… 俺…… 「はぁ……」 ケガした右手を何となく見つめてみる。 あの時マリーに払いのけられた衝撃で、小指の爪がはがれていたのだ。 軽い傷だと思っていたけど、そうじゃなかったなぁ……ショックのせいで痛みなんてしなかったんだと思う。 「マリー……小指痛いよ……」 ……痛い…… 胸の奥がずっとずっと痛む。 せっかくこちらに帰って来たのに、考えるのは向こうの世界のことばかりだ。 っていうか頭の中はマリーのことばかり…… ちゃんと話がしたい。 話をして誤解を解きたい。 俺は誘ってなんかいないし。 そもそも俺があんな風に誘えるわけないし! ガチャ 「才ちゃーん」 「……なんだよ」 「これー借りてたコンパス」 「……机~置いといて」 「ありがとね!」 「……」 「……才ちゃんさ……石油王に惚れたんでしょ」 「……はぁ?」

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