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第80話 番外編 婚約中2
「ジュタ、そんなに俯いていたら不自然だよ。少し顔をあげなさい」
「……だだだってノラ様ぁ……」
「もうすぐ主がお見えになる。それでは逆に失礼だ」
「は、はいぃ」
そうノラ様に囁かれたと同時に扉が開く音が室内に響いた。
……
コツコツと鳴る足音がやたらに大きく感じる。
……
……
ひ、
ヒぇ……
真っ黒い服を身にまとった細身の人物が中央の椅子へと座った。
女性……?いや、王子なのだから男性に決まっている。
一瞬脳内が混乱し、失礼であると思いつつも席に着くまでの数秒間、その人物に目が釘付けになってしまった。
後ろで一つに束ねてはいるが、動くたびに揺れる美しく長い髪は淡いピンク色で、ハイネックで露出を抑えているのにも関わらず、どこか妖しい色気を漂わせる妖艶さがある。
息を呑む程の美貌の人物がそこにいたのだ。
……
この人が、マリー王子?
我に返りすぐに俯き、今見た人物を思い浮かべる。
凄い……なんて綺麗な御方だ。
あの御方がこの国を担っていく次の王なのか……想像していたイメージと大分異なる。
……もっと、ムキムキで男らしい御方かと思っていた。
王子であらせられるのに物凄くお強いと聞いている。
信じ難いがコナー様をも凌ぐ強さだと……本当に?そんな感じだ。
しかし一部では鬼神や悪魔のような暗殺者だと噂され、良くも悪くも崇拝されていたりするらしい。
確かにあの容姿であるならば拝みたくもなるのかも……
こんな凄い御方に使えているのか、ノラ様は!なんて凄い御方なんだ!!
緊張と感動とで泣きたくなる気持ちを抑え、指先一つ動かすことができない厳かな雰囲気の中、会議は恙なく進んでいった。
……と思ったのだけど、各幹部の報告が一通り終わった頃、王子の元へ連絡が入り、それにより会議は一時中断され、
「ノラ、後は任せた」
そう一言言い残し、マリー王子は退席されてしまった。
え?どうされたんだろう。
何かあったのかな?
王子が退席されたのと同時に、周囲のあちこちからため息が零れる。
……どうやら皆様緊張していたのかな?
幹部たちも雑談をはじめ、ピンと張り詰めていた空気が少し緩んだ気がした。
「はぁ、まぁここからでしたら王子がおられなくても大丈夫でしょう」
ノラ様の素晴らしい進行のおかげで、その後は特に問題もなく会議は終了し、お開きとなった。
当然王子が戻ってくることはなく、何かの夢でも見ていたのではないかと思うくらいだ。
「この会議はかなり大事な会議だったのでは?」
「そうだよ。各地域の幹部が揃うことはなかなかないからね」
「でもマリー王子は退席してしまわれましたが……」
「……はは、そうだな。不満そうだなジュタ」
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