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第82話 番外編 婚約中4
ルース
「……あの……さ……」
「はい、才様なんで御座いましょう」
「えと……やっぱりなんでもない」
「左様ですか?」
「……うん!……なんでも……ない……よ」
つい先程、才様とわたくしが交わした、たわいも無い会話で御座います。
目出度く我が主であるマリー様と婚約された才様は、現在マリー様と共にこちらの内殿にお住いになられております。
はああああぁ……まさかこのような日が来るなどと誰が想像出来たでしょうか!
生涯独身を貫くものと思われていたマリー王子がなんとご自分で花嫁を見つけ、そしてご婚約されたのですよ!!
あんなにも嫌がっておられたのに、運命には逆らえないのか、それとも才様の魅力がそうさせたのか……どちらにせよ目出度いことであります!
はい?才様の魅力でごさいますか?
そうですね。それはなんと言っても、お優しいところではないでしょうか。
わたくしには勿論ですが、召使いにまで分け隔てなくご挨拶やお声をかけて下さいます。
お優しく素直な性格の才様ですから、マリー様も気に入られたのでしょうね!
「……?」
おや?今日この時間はマリー様は会議中。おひとりの才様は図書室へ行かれているはずですが……どうやらまだ寝室にいらっしゃるようですね。
いつも聞こえてくる足音が聞こえませんし、気配がありません。
お休みにでもなられているのでしょうか?
コンコン
「才様、いらっしゃいますか?」
……
はて?
返事がありませんね。
カチャ
「才様〜?いかがされましたか」
「……」
?
寝室の扉を開けてみれば、一見誰もいないようにみえる……
ベッドにもいらっしゃらない。
室内のどこにも……どこへ?と、言いたいところですが、残念ながらわたくしも暗殺国家の王子に使える家臣でございます。
幼きマリー王子をお護りして来たわたくしも、一通りの隠密能力を少々齧ってまして……
才様の気配など手に取るようにわかってしまうのです。
部屋の隅のカーテンから微かに人の気配。
ははは全く才様は、こういうところも何とも可愛らしいですね。
「はい、見つけましたよ。才様!」
「……わっ!……っや!」
!!!
勢い良くカーテンを捲った瞬間に才様の異変に気がついた。
呼吸は荒く身体を震わせていたのだ。それに……
これは……
「……ルース……っん……」
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