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冬森の通う学校では全授業が終了した後、全校生徒参加必須の掃除タイムが帰りのHR前に設けられていた。
「クソだりぃ」
めんどくさがり屋の冬森は欠伸を連発しつつ干乾びたような雑巾で雑に窓拭きしていた。
そういや天音って掃除どこ担当だ?
掃除の持ち場は隔週でそれぞれ変わる、冬森はぐるりと教室を見回し、後方隅っこのロッカー前に佇む天音を発見するなり大股で近づいた。
「さぼってんのかー、天音」
天音は両手いっぱいに掃除用具を持っていた。
「お前どんだけ掃除する気満々なんだよ」
「あ、天音、モップちょーだい!」
「はい」
「なんだよその担当、掃除用具渡す係か? 俺もソレがいい、楽そ」
「俺は掃除用具渡す係じゃない、掃除用具の数をチェックしていたんだ」
「俺、一学期はやたらトイレ掃除回されたんだよな、腹立つ、誰が決めてんだよコレ」
「美化委員だ」
「美化委員誰だよ」
「俺だ」
両手いっぱい持っていた掃除用具を教室担当のクラスメートに渡し切った天音は、冬森がばっちぃそうに端っこだけ握っていた雑巾を手に取った。
「もっと綺麗なのがある」
そう言って比較的綺麗な雑巾を代わりに渡し、自分は干乾びたような雑巾を持って、廊下の突き当たりにある手洗い場まで洗いにいった。
黒セーターとシャツを捲り上げ、冷たい流水で丁寧に洗う。
日焼けに疎い肌が水を弾く。
雑巾洗いに真っ直ぐ注がれる無駄に真摯な眼差し。
骨張った長い指をしっかり絡めてきつく絞った。
「マメな奴」
手洗い場までついていった冬森は教室に戻った天音が教卓をこれまた丁寧に磨く姿に辟易した。
「こんなんざっとでいいだろーが」
「ちょっと退いてくれるか」
「おいおい、雑巾何度かけりゃあ気が済むんだよ」
「教室担当になったときはいつもこうしてる」
「お利口さんかよ」
「普通のことだ」
「春海 もマメなとこあっけど、お前には負けるな」
「春海って、Aクラスの春海のことか」
「ここって村雨っちの席みてーなモンだろ」
「村雨っち……村雨先生だけじゃない、他の先生達も使うだろう」
「いーからいーから、テキトーでいーから」
「テキトーだなんてひどいな、冬森君」
やってきた村雨先生はお気に入りで性的にヒイキしている男子生徒にやたら過剰接近し、意味もなく肩まで組んだり耳打ちしたり。
慣れっこの冬森はただ煙たそうにしていた。
教卓を拭き終えた天音が窓際に移動すると、未練なく村雨を放置し、また仕事熱心な美化委員男子の隣へ。
「んな上まで、テキトーでいいって、天音、聞いてんのかオイ」
天音を堕落させようとして見事に躓いている冬森の横顔を、放置された村雨先生は、意味深な笑顔で眺めていた。
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