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5-冬森が天音がこんがらがるゾ

『誰にでも腰振る股開くえろあほなんだよ、こいつ』 あんなことがあった次の日から天音は冬森と目を合わせないようになった。 思わず涙ぽろりした冬森。 現実は砂糖菓子のように甘くないとガッツン思い知らされた。 しかも。 「あ、天音、教科書見せて?」 そう頼んだら天音は教科書を冬森の机に無言で置き、自分は冬森とは反対側の隣人に見せてもらっていた。 さすがにこれにはショック大、涙も出ないくらいに打ちのめされた。 綺麗な字で丁寧に説明が書き込まれた教科書を見つめて、一人、こっそり五里霧中。 心さまよう冬森を余所に真っ青に晴れ渡る空。 「ここは出るぞー」と差し迫る中間テストの出題ポイントを親切に教えてくれた教師の言葉など、五里霧中状態にあるあほ生徒には、届かない……。 「うっそ、冬森ぼっち飯? らしくなーい」 「……秋村や春海と食えよ、夏川」 「えーだってお邪魔虫じゃーん、むしろそんなん虫以下じゃーん」 昼休み、教室の窓際でもそもそコンビニごはんを食べていた冬森の元にぴょんぴょんやってきたのは夏川だった。 天音は食堂で友人と食べる日々が続いている。 これでもかと避けられている冬森は、ここんとこ、元気がなかった。 「やだなー元気ない冬森ってきもーい」 「悪かったな」 「ほらほら、おもしろエロ動画見せてあげっから元気出そ?」 『別れてあげっからさー、冬森ぃ』 『夏川……俺ら、別に付き合ってたわけじゃねぇよな?』 『だからロイホで一番高いメニューとハーゲンダッツおごって、あとVANSのスニーカー買って』 『な、夏川』 「お前のせいで金欠だ」 だらだら食べる冬森の机に両手頬杖な夏川、にまにまにまにま、残り少ないきなこ豆乳をチューチュー飲みながら楽しそうにしていた。 はっきし言って、未練タラタラ、だ。 「あ、ここにおべんとついてるよー♪」 「あ? 弁当なんてどこにもつけてね……、ッ、うわッいきなり顔舐めんじゃねッ、夏川ぁ!」 窓際でぎゃーすか騒々しい冬森と夏川。 食堂から戻ってきた天音は、教室に入りかけ、そんな光景が視界に入るや否や、くるりと回れ右、そうして清々しい空気に満ち満ちた廊下をすたすたすたすた。 ……あの二人、冬森と夏川は。 愛し合っている仲だそうだ。

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