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二人は恋人同士なんだ。
この間のあれは、所謂……痴話喧嘩というものだったのだろう。
全容を把握していない天音の中で冬森と夏川は恋愛関係で結ばれていることになっていた。
長身黒髪眼鏡男子は特に行く当てもなく昼休み中の校内を長い足ですたすたすたすた。
でも、どうして、冬森は俺の名前を呼んだ?
『天音ーーーッッ!!』
同じフロアにいることを知っていて、夏川が言っていた通り、からかうために呼んだのか?
そんな風には聞こえなかった。
真剣に俺のことを呼んでいるような、そんな気がした。
でもそれは俺の勘違いだったのかもしれない。
『さっ触んな…………ッッ!!』
時に俺の手からパンを食べていた、今まで教科書を見せてほしいと自ら距離を狭めてきた冬森。
あの時、俺に触れられるのを嫌がった。
俺のことを拒絶した。
漠然としたモヤモヤに雁字搦めになった天音は校内を一人歩き続ける。
友達と、既婚者の担任と、中年男性と。
男女見境なくヤッたりヤられたり、実践的性教育にはてんで疎い天音にとって何とも衝撃的な話ではあったが。
彼が一番引き摺っていることは、冬森が自分を拒んだこと、だった。
『触んなッむりむりッむりーーーッッ!!』
普段から身だしなみをきちんとしていない冬森の、いつにもまして乱れた制服姿。
局部が無闇に露出し、体育の授業で必要な着替えとは何だか雰囲気が異なっていた、汗ばんだ、湿った……なまめかしく感じられた肌身。
異物を呑み込んだ、勃ち上がった、一際濡れていた性器……。
「ッ」
やっと天音は立ち止まった。
昼休み終了まであと五分、予鈴が鳴り渡る廊下の片隅で、真っ青な空と裏庭の緑を写し出す窓にゆっくりもたれかかった。
あつい。
歩き過ぎた。
でもきっとそれだけじゃない。
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