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「冬森ー帰ろー♪」 「……っんあ? え、何時だ、今」 「四時だよー寄り道しよーおちゃしよー井戸端会議しよー」 「帰んの、めんどくさ……寄り道も会議もしねぇ……zzzzz」 「冬森ぃ~……ちぇっ、ばーか、フーンだ」 冬森はそれからもしばらく寝続けた。 明日から中間テスト、教室に残って勉強していた生徒もちらほらいたが、一人また一人と帰宅して。 五時を過ぎた辺りで外はどんどん暮れていって。 「……あ?」 枕代わりにしていた自分の腕に襲いかかる猛烈な痺れに冬森は目が覚めた。 壁にかけられた丸時計の短針は六時に差しかかったところだった。 寝過ぎてしまって却って体がだるーいあほ生徒は体を起こすのも億劫で、机に突っ伏したまま、カーテンが開きっぱなしの窓から見える茜色と藍色のグラデーションを寝ぼけまなこで眺めた。 これ、完全、夜ですねぇ。 どこまであほなんですかねぇ、俺。 暗い教室で冬森は窓側に顔を傾けたまま、ずっとグーしていた片手を、パーにした。 掌の上には消しゴム。 パン屋の地図。 「これがガソリンスタンドでー……これがセブイブでー……」 誰もいない暗い教室で消しゴム片手に独り言を始めた生徒、傍目にはちょっとコワイ。 でも一人だからいーかと、冬森はまるで気にせずに続けた。 「で、ここがパン屋ー……」 パン、うまかったなぁ。 「一番うまかったの、天音にもらったエビフライパン、あれうまかったわー……」 最近、俺、お前の頭の後ろしか見てねー。 「天音ー……天音ー……あれはねーだろ、教科書放置。ひどくね? なに隣の奴に見せてもらってんだよ。そんなに俺と距離とりてーのかよ、近づきたくねーのかよ。俺、細菌? ウィルス? うん●か?」 まーわりとう●こに近いかもな。 「……まーそーだな、●んこみたいなくそあほな性格だもんな、俺。でもそんな俺でもふつーに傷つくんだよ……てか、さむ。秋、さむッ。萎えるわー……。冬とかねーわ……。でも背中はなんかぽかぽかすんな……」 ん? ほんとだな、ンで背中だけあったかいわけ? 冬森は痺れが大分薄れてきた片腕をもぞもぞ動かして自分の背中をチェックしてみた。 背中に何かがかけられている。 むんずと掴み、手繰り寄せてみれば、黒のセーターだった。 「……天音?」 黒セーターだとわかった瞬間、冬森の脳裏に真っ先に浮かんだのは隣席クラスメートの顔で。 「え、天音? 天音が俺に? う●この俺に?」 「自分を排泄物扱いするな、冬森」 机に長々とうつ伏せていた上体を起こして隣を見てみれば。 天音が座っていた。

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