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6-冬森が天音が月を見るゾ
外はすっかり夜の入口。
夕焼けは溶け落ちて深い藍色にすっかり塗り替えられている。
静かな教室も宵闇に浸りきっていた。
バクバクバクバクバクバク
自分の心臓の音が天音に聞こえんじゃねーかと、冬森は、思う。
「あの時、もし天音に触られてたら、俺は……」
い……いくの、確実だった、から。
「行く? どこにだ?」
勘弁してくれよ、童貞クン。
「……それマジで聞いてんのかよ」
「?」
童貞クン、そんなまっすぐ見つめんなよ、心臓止まんじゃねーか。
冬森は無意識にセーター捏ね捏ねを続けながら、むしろ加速させながら、見慣れない長袖シャツ一枚の天音から微妙に視線を逸らして、答えた。
「いくってのは……ほら、アレだ」
「あれ?」
「しゃ……射精」
「……射精……」
そのワードを聞いた瞬間、天音の脳裏にぶわりと蘇ったのは。
狭い個室トイレ。
乱れた制服姿。
なまめかしく濡れた褐色肌。
これまでの日々において馴染みのない、いつもと異なる発情空間。
尿道バイブの刺激にねっとり涙していた冬森の。
「……ッ」
天音も冬森からつい視線を逸らした。
「……射精、か」
「ん、射精……だな」
互いに床一点を見つめたまま「射精」を繰り返す、傍目にはとんちんかんな光景だった。
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