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9-冬森が天音が惚れ直すゾ
重なり合った唇。
「ッん」
呼吸が止まる。
胸底が痺れる。
体中が一気に発熱する。
俺、キスしてんのか、天音と。
***
中間試験が終了した。
結果は、数学と英語が赤点、あとは平均点以下赤点以上。
冬森のこれまでの成績を振り返ると、うん、オール赤点をとったこともある彼にしては割といい方だった。
「タルタルエビフライサンドー、タルタル白身魚サンドー、あ、そんでタルタルハンバーグサンドー」
「タルタル尽くしだな」
放課後、学校近く、酒屋隣のパン屋で冬森は天音と寄り道していた。
幼稚園児みたいに品名を一つ一つ言いながら好きなだけパンをトレイに乗せ、カウンターで飲み物も注文し、こぢんまりした煉瓦造り風のイートインスペースで遅めのおやつを始めた。
「うま」
「そうだな、出来立てはよりおいしい」
「そっちのもくれ」
「あのな……冬森も同じものを買ってるぞ」
「あ、そなの? あ、ほんとだ」
「明後日は体育祭だな」
「……あさって? たいいくさい?」
「……あのな」
『触ってもいいか』
ほんっと、天音って、俺のことどう思ってんだろーな。
にしても体育祭、俺、何の競技に出んだっけ?
<体育祭最終競技、全学年クラス対抗リレーの一位は2年Dクラスの冬森君です……>
ジャージ裾を折り曲げてふくらはぎを出し、雑に巻いていたハチマキをうざったそうに解いた冬森。
放送部によるアナウンスが全校生徒や保護者で溢れ返るグラウンドに流れ、満更でもなさそーに、というかドヤ顔全開で辺りをきょろきょろ見回していたら。
「冬森ー! かっこよかったよー!」
冬森の背中に飛びつく夏川、次に秋村と春海がやってきた。
「やっぱ冬森さいこー、ね、ヨリ戻そ?」
「まーぶっちゃけ俺は確かにさいこーだな、ヨリ戻そって、そもそも戻すヨリもねーけど」
「ほら、タオル、冬森」
「それ、春海のでしょう、駄目です、僕のをどうぞ」
「お前らのタオルなんかいらねーよ、俺のは天音が……」
天音、どこいんだ?
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