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お、いたいた、天音。
ンであんなトコにいんだ?
保護者並みに遠くから見守ってるカンジじゃね?
「冬森ーごろごろ」
「重てーよ、降りろ、夏川ぁ」
あ、あいつどこ行くんだ、今から閉会式なのに校舎向かってやがる、サボりか? サボんのか?
よーし、俺も天音といっしょサボるー。
「おーりーろ、コラ」
「いでッ!」
「冬森、どこ行くんだよ?」
「しょんべーん」
「うるさいハゲワシに見つからないように」
クラス毎に整列するためグラウンド中央に向かう生徒達。
冬森だけが反対方向へ駆けていく。
保護者の皆さん方の傍らも擦り抜けて、中庭を突っ切り、生徒用玄関から校内へ。
トイレから校庭へ駆け足になって急ぐ生徒数名と擦れ違った。
どこいんだ、天音。
一階のトイレにいねーってことは、やっぱ教室にちゃっかり戻ってんのか?
あの天音がサボりなんてめずらし。
<校舎内にいる生徒は校庭へ戻ってください……>
アナウンスを綺麗さっぱり無視して冬森は階段をのぼ……。
「うわ!」
まさか階段踊り場に天音がいるとは思わず冬森はぎょっとした。
「冬森」
「天音、こんなとこでサボってんのか?」
「サボってるわけじゃないが」
「だって、もう閉会式始まるぞ」
「ああ、閉会式、そういえばそんなものがあったな」
様子が変だ。
何だかふわふわしている。
「疲れたのかー? 借りもの競争でビリだったの、ショックなのかー?」
「……日の丸弁当が見つからなかった」
天音が黄昏るようにして佇んでいた踊り場に到着し、呑気に会話していた冬森だったが。
一階から足音が。
閉会式をさぼる不届き生徒がいないかどうか見回りにきた通称ハゲワシなる厳しい体育教師だ、これはピンチだ。
ふわふわしている天音の腕を咄嗟に掴み、足音を立てないよう階段を上りきると、冬森は一先ず一年生教室に入った。
そっとドアを閉め、天音を座らせて自分も座り込み、ハゲワシが二階にまで上ってこないよう面倒くさそうに祈った。
「ハゲワシ説教長ぇからな」
「……そうだな」
「お前も説教されたことあんのか?」
「マラソンのタイムが遅い、タッパがあるんだからバスケ部かバレー部に入れ、三十分くらいそんなことを繰り返し言われた」
「まじうぜぇな、あいつ」
上下ジャージ、喉元が隠れるくらいジッパーをきっちり上げた天音はほんの少し口元を綻ばせた。
「タオル返せよ」
冬森がそう言うと、天音はずっと片手に握りしめていたブランドのロゴいりタオルを渡してきた。
がらんどうな教室。
カーテンの狭間から覗く空がやたら青く見える。
足音は聞こえてこない。
グラウンドでは話がくそ長いことで生徒にも教師にも評判の悪い校長の話が始まっていた。
「なんかこれ青春っぽくね」
冬森の何気ない一言に天音は声を立てずに笑った。
「あ、笑った」
「え?」
「俺、天音の笑う顔、好きだわ」
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